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静脈血栓塞栓症の専門医療機関への紹介のタイミングは?

No.4799 (2016年04月16日発行) P.59

神元有紀 (三重大学医学部附属病院周産母子センター講師・医局長)

池田智明 (三重大学医学部産科婦人科学教室教授)

登録日: 2016-04-16

最終更新日: 2016-12-15

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【Q】

静脈血栓塞栓症(venous thromboembolism:VTE)は,低用量ピル服用時に重篤な事態を惹起しうる合併症です。その早期診断のため,処方医はACHESと略称される症状を認めたらD-ダイマーを測定することが勧められています。
典型的なACHES症状があれば,早急に救急医療機関を紹介することとしておりますが,軽度の症状の場合は,来院を促し,D-ダイマーを測定し,正常範囲を逸脱していればVTE対応可能医療機関に紹介することにしています。そこで質問があります。
(1) 軽度の自覚症状でD-ダイマー値に異常があった場合,直ちにVTE対応可能医療機関に受診させるべきなのでしょうか。D-ダイマー値にもよるかもしれませんが,数日間の猶予はあるものでしょうか。
(2) 仮に,直ちに受診が必要だとしたら,D-ダイマー測定を外部検査機関に依頼する診療所では,その検査結果が採血から数時間~2,3日経て報告されるため,治療の時機を逸することになってしまいます。それを防ぐには診療所内に測定機器を備えておく必要があるのでしょうか。
三重大学産科婦人科学・池田智明先生のご回答をお願い申し上げます。 (東京都 A)

【A】

(1)軽度の自覚症状でD-ダイマー値に異常があった場合の専門機関紹介
2015年の11月に新しく発刊された『OC・LEPガイドライン』(文献1)では,ACHES症状が出現すればWells score(表1・2)をつけ,症状の程度を判定し,VTEの可能性が高いか低いかを判断するようにしています。このWells scoreはプライマリケア,家庭医向けとして世界的に広く普及しており,米国でもオーストラリアでも深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)の診断に際し,まずこのスコアをつけることを推奨しています(文献2,3)。スコアが2点以上であれば,DVTの可能性が高く(DVT likely),1点以下であれば可能性は低い(DVT unlikely)と考えます。これを用い,次のステップであるアルゴリズム(図1)(文献1,3)に入っていきます。このアルゴリズムからすると,DVT unlikelyの場合,次のステップとしてD-ダイマーを測定し,高値であれば下肢静脈圧迫超音波検査(compression ultrasound scan:CUS)を行います。CUSが陽性であればDVTと診断し専門医療機関に紹介します(D-ダイマーがよほど高値であればCUSなどを省略し専門病院に紹介してもよい)。逆にDVTの可能性が高い場合は,直ちにCUSを行い,陽性であればDVT,陰性であればD-ダイマーを測定し,D-ダイマーが高値であれば1週間でCUS再検としています(文献3)(DVTの可能性が非常に高い場合,CUSなどを省略し専門病院に紹介してもよい)。
また,DVT/肺塞栓症(pulmonary embolism:PE)診断におけるD-ダイマーの検査の特徴は,感度と陰性的中率は高く,特異度と陽性的中率が低いことです。言い換えると,D-ダイマーが高くてもDVTでない場合はありますが,D-ダイマーが陰性であればDVTが否定できるところに有用性があります。
以上から,軽度の自覚症状の場合,Wells scoreをつけ,DVTの可能性を評価し,D-ダイマーの測定もしくはCUSを行います。CUSが陽性であれば直ちに専門病院に紹介しますが,CUSが陰性であれば数日間の猶予はあると考えます。
(2)診療所内に測定機器を備えるべきか
上述しましたが,D-ダイマーの検査の特徴は,感度と陰性的中率は高いものの,特異度と陽性的中率が低いことです。言い換えると,DVTがある場合,D-ダイマーが陽性となりますが,DVTがなくてもD-ダイマーが陽性となる偽陽性率が高いことが欠点となります。このため,D-ダイマーだけでなく,Wells scoreやCUSを用いてDVTの可能性を評価しています。したがって,D-ダイマーの測定機器を備えておく必要は必ずしもないと考えます。しかし,D-ダイマーが陰性であればDVTは否定できますので,そういう意味では測定機器があってもよいと考えます。

【文献】


1) 日本産科婦人科学会, 編, 監:OC・LEPガイドライン 2015年度版. 日本産科婦人科学会, 2015.
2) Wilbur J, et al:Am Fam Physician. 2012;86(10):913-9.
3) Ho WK:Aust Fam Physician. 2010;39(7):468-74.
4) Wells PS, et al:N Engl J Med. 2003;349(13):1227-35.
5) Wells PS, et al:Thromb Haemost. 2000;83(3):416-20.

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