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2段階選抜の試験方式に問題はないのですか?

No.4804 (2016年05月21日発行) P.65

南風原朝和 (東京大学大学院教育学研究科教授)

登録日: 2016-05-21

最終更新日: 2016-10-18

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【Q】

ある大学の入学試験では,一次試験として,選択式と記述式が課され,募集要項に,選択式で一定の得点以上得点しないと記述式は採点されないと明記しています。このような入学試験の選抜方法に,何らかの問題はないのでしょうか。募集要項に記載のある事項であり,受験者は納得済みで受験しているので,適切と考えてよいのでしょうか。
これは,大学の志願倍率がきわめて高く,全部の記述式の答案を採点することが物理的に不可能なことによると考えられますが,私としては,記述式の答案を採点されない者が生じるのは,問題があるものと考えています。 (岐阜県 K)

【A】

筆者は法律の専門家ではなく,テストの理論や方法を専門にしていますが,ご指摘の方式は,たとえば地方公共団体の職員採用試験などでも,「筆記試験の得点が一定基準に満たない場合,作文の採点を行わないことがあります」と明記されているケースがあり,法律的には問題がないと言ってよいでしょう。
ご指摘の方式は,入学試験における2段階選抜の一種とみなすこともできます。たとえば,東京大学の入学試験では,大学入試センター試験の成績によって第1段階選抜を行い,募集人員に一定の倍率を掛けた人数までが第2段階選抜の記述式試験に進むことができます。これは第2段階の記述式試験を円滑に実施し,かつ精度の高い採点を行う上で有効な方法だと考えられます。
このような一般的な2段階選抜の場合,第1段階で不合格となれば第2段階の試験は受けられないので,ご指摘の方式のように,受験生に記述式問題に解答させているのにそれを採点しないというのとは違いがあります。後者の場合,受験生に無用の負担をかけてしまうという難点はありますが,選択式問題で第1段階選抜を行い,その合格者のみを集めてあらためて記述式問題で第2段階選抜を行うことに比べ,全体としてはコストの低い効率の良い方式と考えることができます。また上述のように,記述式問題の答案に対し高い精度で採点を行うには,受験者数(答案数)がある程度限定されていることも必要ですので,この方式は,公正な入学者選抜という観点からも望ましい側面を持っています。

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