日本内分泌外科学会と日本甲状腺外科学会は2010年に甲状腺腫瘍診療ガイドラインを公開した。その中で甲状腺乳頭癌に対して,わが国独自の管理方針を提示している。
第一に,再発する危険が少ない段階のがん(T1N0M0)に対しては甲状腺の切除範囲を患側腺葉にとどめることを勧めている。一方,再発の危険が高いと予想される場合には,甲状腺全摘と必要に応じたリンパ節郭清を推奨している。再発の危険がどちらにも当てはまらない“グレー・ゾーン”の症例では,ほかの予後因子や手術合併症の懸念を考慮して決定する。
第二に,再発予防を目的として行う放射性ヨード内用療法(アブレーション)の至適投与量を30mCi以上100mCi以下とした。同療法については,わが国の厳しい診療環境から100mCi投与が可能な入院病床は減少の一途をたどっており,これに代わる方法として30mCi外来投与によるアブレーションを2011年から開始した。
第三に,(明らかなリンパ節転移や遠隔転移を伴わない)腫瘍径が1cm以下の微小がんに対しては,「十分な説明と同意のもと非手術経過観察を望んだ場合,その対象となりうる」としている(CQ20)。わが国の2施設で行われている臨床観察研究の結果から,こうした選択肢が提示されている。ただし,長期の転帰は不明である。
日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会 編:甲状腺腫瘍診療ガイドライン2010年版. 金原出版, 2010.