鏡視下膝前十字靱帯(ACL)再建術の治療成績は,近年大きな向上を示しその手術侵襲は格段に減少した。しかし,一束ACL再建は膝安定性などにおいて問題点も残されており,さらに改良が続けられてきた。二重束再建手技はその1つであるが,ACLを構成する2本の線維束である前内側および後外側線維束(AMB,PLB)を解剖学的に再建する手技は,これまで報告されていなかった。Yasudaらは,AMB・PLBを解剖学的位置に再建する解剖学的二重束ACL再建術を開発した(文献1)。以後,この手術の追試が世界中で行われ,詳細な解剖学的および生体力学的研究が進んでいる。
一方,近年,ACL内には数種のメカノレセプターや血管の存在が証明され,ACL損傷膝においては,力学的な構造が破綻するだけではなく関節固有感覚の低下が生じることが明らかとなった。そのため,関節固有感覚の早期回復および移植腱再構築過程の促進などをめざして,遺残組織を温存したACL再建術が試みられている(文献2~3)。しかしながらACL再建術は,今なお移植腱の採取の問題および競技復帰には長期間を要するなど,多くの問題が存在する。靱帯再建術の進歩には,生体力学的および生物学的アプローチが不可欠と考えられる。
1) Yasuda K, et al:Arthroscopy. 2004;20(10): 1015-25.
2) Adachi N, et al:Arch Orthop Trauma Surg. 2000;120(3-4):128-33.
3) Yasuda K, et al:Arthroscopy. 2012;28(3):343-53.