上顎洞癌は進行癌の状態になって症状が初めて出現することが多いため,治療は口蓋を含めた上顎全摘術,眼窩に浸潤があれば眼窩内容を合わせて摘出する上顎拡大全摘術が標準治療である。しかし,顔貌の変化,口蓋・眼窩内容摘出に伴う機能障害が大きい。
上顎洞癌は支配血管が明瞭であるため解剖学的に動注化学療法に適しており,日本では1960年代から動注化学療法が行われてきたが,1990年代に “超選択的動注療法”として再び注目されるようになった。方法は,カテーテルを選択的に腫瘍の栄養血管に挿入し,そこから大量のシスプラチンを動注する。そのシスプラチンをチオ硫酸ナトリウムによって中和し,副作用を軽減しつつ毎週動注を行うというものである。放射線治療との同時併用で,手術せずに根治をめざす方法で行われている。切除可能例では手術と同等の,切除不能例でも高い治療成績が報告されている(文献1)。
本治療は,オランダで頭頸部の異なる部位による多施設共同試験が行われたが良い結果が得られず,海外では普及していない。日本でもIVRの高い技術が必要なため一部の施設でしか行われていなかったが,現在,JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)において多施設共同試験が開始され,動注化学療法に適した上顎洞癌でわが国から世界的なエビデンスを発信することが期待される。
1) Homma A, et al:Br J Cancer. 2013;109(12): 2980-6.