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法医学的な生化学検査

No.4756 (2015年06月20日発行) P.54

辻 彰子 (九州大学法医学)

池田典昭 (九州大学法医学教授)

登録日: 2015-06-20

最終更新日: 2016-10-26

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死体の血液や体液では多くの生化学マーカーは様々な修飾を受けており,生体とは異なる値を示す。そのため,診断に利用できる項目と,できない項目があることが広く啓蒙されてきた。検査項目としては,解剖時,肉眼的に診断可能な疾患のための検査ではなく,死の機序や死因との因果関係を考察するための法医学的診断として価値のあるものが選択されてきた(文献1)。死後経過時間という制限はあるものの,代表的なものとして次のような項目が挙げられる。
内因死では,CRPやHbA1cはしばしばスクリーニング的に実施される。症例によって,インフルエンザウイルスやB型・C型肝炎ウイルス検査,血球数や血液像検査を行う場合もある。外因死では,溺死の際に貯留する胸腔内液の電解質検査により,溺水が淡水であるか海水であるかを診断しており(文献2),これはきわめて法医学的な検査であると言える。生体で,一般的に簡便に実施される臨床検査項目以外で法医学的診断に有用とされるものもあるが,いずれも研究レベルにとどまっている。
一方,解剖を実施せず(できず)に検死を行う際に,穿刺で得た血液から死因となった疾患を診断することは,困難であると言わざるをえない。たとえば,心筋梗塞診断のためのCK, LDH, トロポニンなどはそのアイソザイムも含めて,診断的利用価値がきわめて低いことが広く知られるようになった。

【文献】


1) Maeda H, et al:Leg Med (Tokyo). 2011;13(2):55-67.
2) Usumoto Y, et al:J Forensic Leg Med. 2009;16(6):321-4.

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