進行した喉頭癌症例や,喉頭に進展した下咽頭癌・甲状腺癌症例では,放射線療法,化学療法が発達した今日でも喉頭全摘術が避けられない。この手術で患者は「無喉頭」となるが「無喉頭発声法」があり,食道に飲み込んだ空気で声を出す「食道発声」や,電気振動するバーを頰や顎下部に当てて声を出す「電気喉頭発声」が行われる。
ただし,食道発声は発声獲得率が3割と低く,電気喉頭発声は抑揚の少ない不自然な声になる。これらに対して最近普及してきたのが「プロヴォックス(Provox)R」などのシリコン製円筒型発声器具による「人工喉頭」である。
喉摘者では気管の頭側にあった喉頭は摘出され,気管の断面は永久気管切開口として前下頸部に開いている。気管切開口部の気管膜様部に,裏面の食道に至るシャント(瘻)を作製しプロヴォックスを挿入・留置しておくと,患者が指で気管切開口を塞いで息を吐けば,呼気は,気管→気管切開口→プロヴォックス(シャント)→食道→咽頭→口腔の順で流れ,咽頭が振動し発声できる(文献1)。これを「気管食道シャント発声」と呼ぶ。食道発声のような自然な発声ができ,発声獲得率も8~9割と高い。食道が遊離空腸で再建されているときは「気管空腸シャント発声」と呼ぶ。
このプロヴォックスには逆流防止弁が付いており,食道側の飲食物は気管側に流れない構造となっている。
1) 岩井 大:耳鼻・頭頸外科. 2007;79(5):211-20.