肺癌の外科治療成績は,毎年行う日本胸部外科学会の学術調査と,数年ごとに行う肺癌登録合同委員会の調査により,経年的な推移を把握し世界へ発信している。前者は,悉皆性は高いものの術前・術後を含めた手術情報が少なく,一方後者は,登録情報が多いものの悉皆性は低い。
2011年から始まった外科手術の登録制度(National Clinical Database:NCD)は,外科専門医制度とリンクさせることで,国内で行われた外科手術例を登録するシステムである。呼吸器外科領域は当初,手術に関する基本項目のみの登録から開始し,全国の肺癌手術症例の95%が登録された。悉皆性の高い肺癌手術を中心に,14年からは術前・術中・術後の詳細な情報を登録するシステムに移行したが(文献1),95%以上(推定)の肺癌手術が登録されたようで,NCD2014は肺癌手術症例を詳細に分析できるビッグデータになったと思われる。
人口の高齢化とともに昨今の肺癌症例は合併症を複数有する場合が多く,リスクを考慮しつつ手術適応・術式を決定しなければならない。今後,毎年行われるNCDのビッグデータを用いれば,たとえば糖尿病性腎不全で透析中のⅠ期肺癌の80歳男性の肺葉切除術など,個々の症例ごとのリスクを最新の日本の肺癌治療成績をもとに容易に解析できるため,日常診療に役立つはずである。そのために我々は常日頃からデータを正確に入力するようにしなければならないし,入力システムもより簡便なものに修正する必要がある(文献2)。
1) 遠藤俊輔, 他:呼吸. 2014;33(6):538-47.
2) 田上創一, 他:日外会誌. 2015;116(4):276-82.