変形性関節症や関節リウマチに伴い,高度に変性した膝関節に対する人工関節手術は,除痛と機能回復について有効性が広く認められているが,耐用年数や満足度の低い症例の存在など,改善すべき課題が残存する。人工膝関節の良好な長期成績を得るためには,股関節,膝関節,足関節それぞれの中心で定められる下肢機能軸を指標とした正確な術後アライメントの獲得が目標とされる。
従来は骨軸をもとに骨切りとインプラントの設置が行われていたが,誤差が生じやすいことが問題であった。2000年代にはコンピュータナビゲーションシステムが導入され,下肢機能軸を指標に正確なアライメントを再現したインプラント設置が可能となったが,高価なコストや関節外部への侵襲などの問題があり,標準的手術とはならなかった。
近年は,加速度計,角速度計センサーを内蔵したポータブルナビゲーションが開発され,高精度でかつ低侵襲,簡便な手術が期待されている。また,患者独自の膝関節三次元モデルをCTやMRIをもとに作製し,同じ嵌合面を有する骨切り器械を同時作製して手術に用いるpatient-matched instrument(PMI)も,精度の高い骨切りとインプラント設置が報告されてきている。
新しい器械であるポータブルナビゲーションやPMIを用いた人工膝関節手術は,下肢機能軸を指標とした正確なアライメントの獲得に有効で,良好な短期臨床成績が欧米で報告されている。将来的には,耐用性を含めた長期臨床成績の検証が必要となるであろう。