肺癌に対して外科治療を行う際には,根治性を重視することはもちろんであるが,肺機能の温存も考慮しながら術式を選択する必要がある。肺癌の標準的な術式は肺葉切除である。肺機能低下例などに対して区域切除や部分切除が行われることがあるが,これらの術式の問題点は局所再発である。2cm以下の小型肺癌では,区域切除の予後が肺葉切除の成績に劣らないとの報告(文献1)があるものの,標準化までには至っていない。臨床病期ⅠA期の末梢小型非小細胞肺癌(2cm以下)に対して,区域切除が肺葉切除に対して全生存率で非劣性であることを検証する前向き試験が現在わが国で施行されており,その結果により末梢小型肺癌では区域切除が今後標準となる可能性がある。
肺全摘術は中枢発生の肺癌に対して行われるが,呼吸機能だけではなく心機能に与える影響も大きく,術後合併症の発生率や死亡率に関しても肺葉切除に比較して高いとされる。管状肺葉切除は,がんの浸潤が及んだ中枢気管支を切除再建する術式で,肺全摘を回避するための有用な方法である。最近では,中枢発生の肺癌に対して肺移植手技を応用して片肺をいったん体外に取り出し,主病巣とがんが浸潤した中枢気道や血管を切除後に,気管支と血管を再建する術式も考案された(文献2)。
近年,心肺機能が低下した高齢者肺癌例が増加しており,機能温存と根治性の両立をめざした手術の需要が増えることが見込まれる。
1) Okada M, et al:J Thorac Cardiovasc Surg. 2006;132(4):769-75.
2) Oto T, et al:Eur J Cardiothorac Surg. 2012;42(3):579-81.