わが国の医学史上画期的な出来事であると誰もが認める『解体新書』の出版について、訳著者となっている杉田玄白と、実際の訳者前野良沢の生涯を記した小説(吉村 昭 著、新潮社、1974年刊)
『解体新書』の翻訳において、前野良沢と杉田玄白の訳業とその背景が書かれている。最終的に訳者として世に認められた玄白だが、実は、蘭語を翻訳したのは良沢であったという歴史を紐解きながら、2人の生き方を対比している。玄白は蘭学の先駆者としての名声を博したが、本当は蘭学に通じてはいなかった、ということである。『蘭学事始』に掲載され、教科書でよく使われている「鼻はフルヘッヘンドしたものである」という逸話は、実は、原書には「フルヘッヘンド」という単語がない。ここに玄白の人間性を垣間見る思いがする、と吉村氏は記載している。
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