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医師偏在と医学部進学熱の本質 ─ まずは「地元枠」の拡充を 【有識者に聞く】[特集:地域枠から考える医師養成と偏在問題9]

No.4827 (2016年10月29日発行) P.30

権丈善一 (慶應大学商学部教授)

登録日: 2016-10-28

最終更新日: 2016-11-07

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  • 権丈善一(けんじょうよしかず)

    〔略歴〕1962年福岡県生まれ。85年慶大商学部卒、90年同大院商学研究科博士課程修了。2002年より慶應大学商学部教授。政府の社会保障国民会議(08年)、社会保障制度改革国民会議(12~13年)などの委員を歴任。15年12月より厚労省「医師需給分科会」構成員。近著に『医療介護の一体改革と財政』『年金、民主主義、経済学』『ちょっと気になる社会保障』


    鮭の母川回帰仮説

    ─医師偏在対策の1つとして、地域枠の必要性が指摘されています。地域に定着しやすい地域枠とはどのようなものでしょうか。

    地域枠を語る上では、まず「なぜ今こうなっているのか」という歴史的経緯を知っておく必要があります。

    1973年に「一県一医大構想」が打ち出され、全国に医学部がつくられました。医局の派遣機能もあったのでしょうが、私は恐らくこの構想は、医師の地域偏在を緩和する面でかなりうまく作用したのだと思います。

    出身地の大学を卒業した医師は地元に残る傾向があるようで、一県一医大構想というのは、意識的にか無意識的にか、そうした傾向が生かされた政策だったように思えます。その傾向は、以前から世界的に観察されていて、例えば1993年、ノルウェーで、地元出身者は医学部卒業後も地元に居着くというエビデンスに基づき、「鮭の母川回帰」にたとえた研究者もいます(Home-coming salmon仮説)。人々の暗黙の了解を明示化した仮説と言えます。

    一県一医大構想もそんな了解が無意識のうちにあったのでしょう。しかし、この構想の目算は90年代に狂ってきます。

    ─きっかけはバブル崩壊でしょうか。

    そうです。私は「地域医療崩壊」が強く言われ始めた2006年頃、「恐らく医学部の偏差値がバブル崩壊の頃から急上昇しているだろう」と考えました。学生に協力してもらって調べてみると、果たしてその通り。90年頃には偏差値45周辺という私立医学部もありましたが、バブル崩壊以降、理系の他学部の偏差値が落ち込む中で、医学部は急上昇し、どこもかしこも「難関」になりました。



    同様の現象は、97年に通貨危機を経験した韓国でも起こっています。

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