悪性胸膜中皮腫は,石綿曝露によって生じる難治性の悪性疾患である。本疾患に対する根治的切除術式は胸膜肺全摘術とされてきたが,片肺と全胸膜を切除する本術式はきわめて侵襲が大きく,心肺機能に深刻な影響を与え,なおかつ治療成績が不良であることから,手術そのものの意義が以前より疑問視されてきた。2011年に発表されたMARS試験(文献1)では,導入化学療法を行った悪性胸膜中皮腫に対して,胸膜肺全摘術を施行した群は施行しなかった群より有意に予後が不良であり,胸膜肺全摘術の意義はないと結論づけられた。
その後,胸膜肺全摘術に代わる術式として胸膜切除/肺剝皮術が紹介された。肺実質は切除せず,臓側胸膜も含めた胸膜のみを切除する本術式は,胸膜肺全摘術と比較して機能温存に優れ,同等もしくはやや良好な予後が報告(文献2)されている。術式の根治性からみれば胸膜切除は腫瘍の残存する危険性は高いが,機能の温存に優れている。そのため,術後あるいは再発時の化学療法が十分に施行できることが,予後に良い影響を及ぼしていると考えられる。
悪性胸膜中皮腫は症例数が少ないため,直接両術式を比較する臨床試験は行えそうにない。そのため,腫瘍の進展と臓器機能を十分に吟味し,化学療法や放射線療法と組み合わせながら,症例ごとに術式を検討することが肝要である。
1) Treasure T, et al:Lancet Oncol. 2011;12(8):763-72.
2) Batirel HF, et al:J Thorac Cardiovasc Surg. 2016;151(2):478-84.