【Q】
新規融資時の連帯保証人制度の改正法の成立はいつ頃になる見通しですか。医療機関で注意すべきことは何ですか。成立後は,たとえば平成27(2015)年以前の契約はどうなりますか。連帯保証人なしの契約をし直す必要はありますか。 (大阪府 W)
【A】
平成27(2015)年3月31日に民法の一部を改正する法律案が衆議院に提出されました。これは,明治31(1898)年に現行民法が施行されて以来初の財産法の全面的改正で,保証人制度の改正も含まれています。
第189回国会では,安全保障関連法案などの審議が優先され,民法改正案は第190回国会で継続審議となりました。しかし,第190回国会においても成立せず,次国会での継続審議となりました。いずれは成立が見込まれます。
保証人制度については,平成16(2004)年の民法改正において,保証契約は書面によらなければ効力を生じないとされるなどの一部改正がなされていましたが,今回の改正案でも,保証人を保護するための改正が含まれています。特に,連帯保証人は,債務者本人とほとんど同じ立場で返済の責任を負うことから,改正の議論の中では,連帯保証人制度自体を廃止すべきではないかという発言も一部出たようです。しかしながら,結局,連帯保証人制度自体の廃止とはなりませんでした。
今回の改正案のうち,保証人に関する改正事項には,事業のための借金について,法人以外で事業に無関係の人が保証契約を結ぶには,保証契約締結前1カ月以内に作成された「公正証書」によらなければ,効力を生じないとされるなど(民法改正案第465条の6以下),大きな改正が含まれます。
今回の保証人制度の改正案で,医療機関において特に注意しておかなければならないのは,医療費の未収対策として連帯保証人をとる場合です。改正において,医療費について連帯保証人をとるにあたっては,保証人が責任を負う限度額(極度額)を書面で定めなければ,保証契約の効力が生じないことになります(民法改正案第465条の2第2項,第3項,第446条第2項)。
この改正は,以下のような理由によります。一般の借り入れなどの際に保証人をつける場合は,あらかじめ借り入れの金額が特定されており,借り主自身が支払わない場合に保証人が支払い義務を負う範囲もあらかじめわかっています。これに対し,たとえば建物賃貸借契約において,賃貸借契約に基づき発生する債務(賃料や損害賠償債務など)について保証人をつける場合,場合によっては保証人が支払い義務を負う範囲が,保証人が予想しないまま過大になる可能性があります。このような,一定の範囲に属する不特定の債務を保証する保証契約(「根保証契約」と言います)については,極度額を定めて保証人が責任を負う範囲が明確となっていない限り,効力を生じないものとして,保証人を保護すべきとされたのです。
医療費の支払い義務についても,診療契約に基づき発生し,患者の状態や支払い状況によってその金額が変動するもので,これを保証する場合も根保証契約となります。そのため,改正民法施行の際は,連帯保証人に署名・押印を求める書面に極度額を定めておかなければならなくなります。
改正民法の施行期日は,「公布の日から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日から」とされているため(民法改正案附則第1条),法律自体が成立していない現状では,施行はまだ数年先になると思われます。
なお,附則において,施行日前に締結された保証契約は従前の例によるとの規定が置かれましたので(民法改正案附則第21条第1項),平成27年以前の契約については改正前民法が適用されることとなります。そのため,医療費の連帯保証人について極度額を定めた契約を締結し直したり,連帯保証人なしの契約を締結し直したりする必要はありません。