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相続における使用借権付土地と特別受益の考え方は?

No.4811 (2016年07月09日発行) P.62

澤野順彦 (澤野法律不動産鑑定事務所 弁護士・不動産鑑定士)

登録日: 2016-07-09

最終更新日: 2016-12-19

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【Q】

実勢価格1億円の土地が2つあるとします。親1人で子ども2人(AとB)。Aは片方の土地を使用貸借で借りて,アパートを建てました。地代相当額は年間50万円で,20年後に相続が発生したとします。
Aの使用している土地は,使用貸借による減価により,評価額は8000万円となりました。もう片方と合わせて土地全体の評価額は1億8000万円であるから,双方の取り分は半分の9000万円ずつになるとし,Bに対して1000万円支払うように主張しました。BはAが特別受益を得ていたと主張します。結局,現在の法律では賃料は考慮しないことになっており,Aの特別受益は土地の20%で,Aは評価が8000万円ではあるが2000万円の特別受益を得ているとされ,Aは上にアパートのある評価額8000万円の土地(その代わり50万円×20年=1000万円の利益を既に得ている),Bは1億円の土地を相続することになりました。この時点でAは9000万円,Bは1億円を得たことになります。
ところが,Aが相続した翌日にアパートを取り壊し,更地となった土地は1億円で売れました。この場合,Aは1億円+(50万円×20年=1000万円)=1億1000万円の財産を得たことになります。これは不公平ではないでしょうか。
地代相当額を年間50万円とした場合,評価額の6%となると年間600万円となり,AとBの受けた利益にあまりにも大きな差が出るように思います。
(埼玉県 K)

【A】

相続財産のうち,一部に使用借権が設定されている場合において,遺産分割が行われる場合,考慮すべき事項はどのようなものでしょうか。
まず,使用借権の設定されている当該土地を相続取得する者は,自らが使用借地人でない限り,使用借権による土地の利用制限が付着するため,当該土地の相続財産としての評価額は,更地価格から当該使用借権価格相当額を控除した額となります。使用借権価格ないし使用借権割合は,一般に,更地価格の10~20%,または借地権割合の3分の1程度と考えられます。
次に,相続人の中に当該使用借地人がいる場合には,当該相続人は,相続財産について被相続人から特別受益を受けていたことになります。遺産分割に際し,当該使用借権価格相当額を相続財産に持ち戻して遺産額および相続分を算定する必要があります。
他方,遺産分割調停において,使用貸借期間中の地代相当額が特別受益にあたる旨の主張がなされることが少なくありませんが,裁判の実務においては,特別受益制度は遺産の前渡し分を遺産分割の際に考慮して持ち戻し計算する制度であるため,相続開始時の遺産の減少分,すなわち使用借権価格相当額が特別受益であり,遺産の価値とは関わらない地代相当額は特別受益とはならないとされています。
したがって,使用借地上の建物の収益も,当然,特別受益とはならず,また,遺産額および特別受益の計算は相続開始時において行われるものであり,その後の事情は遺産分割に何ら影響を及ぼしません。今回の設問に関しては,以上のことを考慮する必要があります。

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