【Q】
私の妻の実家は飲食店(A株式会社/代表取締役は弟)を経営しており,親族関係は,母・弟・妹で,父は既に他界しています。
妻の実家の建物は弟名義ですが,その底地(本件土地)は母名義になっているところ,A株式会社の借入の担保として,本件土地と弟名義の建物にX信用金庫の根抵当権(極度額1億2000万円)が設定されています。なお,借入金の残高は,現在,約7500万円であると聞いています。
この先,母が亡くなり,相続が発生したときには,母名義の本件土地はどうなるのでしょうか? また,相続に際して留意すべき点があればご教示下さい。(群馬県 K)
【A】
(1)相続人
本問のケースにおいて,母上に相続が発生した場合の法定相続人は,質問者であるK先生の奥様,A株式会社の社長でもある弟さんと妹さんの3人で,法定相続割合は,各1/3となります(民法第887条1項・第900条4号)。
(2)相続財産
相続財産には,不動産などのプラスの財産と,借金などのマイナスの財産があり,法定相続人はプラスとマイナスの両方を共同で相続するのが原則です(民法第896条・第898条)。
亡くなった人が遺言を残している場合(民法第960~1027条)や,法定相続人間で遺産分割協議が整った場合(民法第906~914条)には,相続財産を特定の相続人が相続することもできます。ただし,マイナスの財産である借金などについては,債権者との合意が必要になるとされています。
本問のケースにおいて,プラスの財産である本件土地は,根抵当権の負担のあるかたちで相続することになります。したがって,本件土地を仮にK先生の奥様が単独で相続した場合であっても,A株式会社が借入金を返済できなかったときには,最終的に本件土地を失う可能性はあります(民事執行法第180~188条)。なお,X信用金庫が本件土地に根抵当権を設定しているからといって,根抵当権の対象である債務自体はあくまでA株式会社のものであり,母上のものではありませんので,それを相続することはありません。
(3)連帯保証
実務的には,不動産を担保提供している場合には,担保提供者が債務について連帯保証をしているケースが少なくありません(民法第452~454条・第458条・第434~440条)。
本問について,母上が本件土地を担保に提供するだけでなく,A株式会社の債務に連帯保証をしているような場合には,法定相続人はその連帯保証債務を法定相続割合で引き継ぐのが原則となります(民法第896条・第898条)。また,本件土地をK先生の奥様が相続したような場合には,X信用金庫がK先生に対し,あらたに連帯保証を求めてくる可能性があります。
(4)相続放棄
相続には,「相続放棄」という制度があります。法定相続人が相続放棄をしますと,初めから相続人でないことになります(民法第938~940条)。
本問について,仮にK先生の奥様が相続放棄したとすれば,母上が連帯保証をしていた場合であっても,連帯保証債務を含む母上の一切のマイナスの財産を引き継ぐことはありません。ただし,本件土地を含むプラスの財産を相続することもできません。