【質問者】
村井俊哉 京都大学大学院医学研究科精神医学教授
法は人を有罪か無罪かにカテゴライズします。明確な二分法です。
法はその前提として,被告人が精神障害か否かを問います。精神障害により,理非善悪の弁識能力またはその弁識に従って行動する能力が失われていれば,心神喪失と認定され無罪になるからです。ここでいう精神障害とは何を指すのか。それは法には明文化されていませんが,パーソナリティ障害は指さないのが通例です。
弁護人は無罪をめざします。検察官は有罪をめざします。ですから,弁護人が統合失調症だと主張すれば,検察官は統合失調症型パーソナリティ障害だと主張します。弁護人が妄想だと主張すれば,検察官は支配観念だと主張します。
では,精神医学的にはどう判定できるのか。鑑定医にはその説明が求められます。判定が困難なことがある一方で,容易なこともありますが,それでもなぜ容易に判定できるのかと法律家から問い詰められたとき,明快には説明できないことに気づかされることもしばしばあります。診断名にしても症状名にしても,精神科医は経験に基づく理念型に大きく依拠して判定していることが,経験を共有しない法律家に精神医学的事項を説明するとき強く実感されます。
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