上顎洞悪性腫瘍に対する上顎全摘術では,外切開による軟部組織の処理,骨削開を行い,最後の翼状突起の切断にはノミが使用される。その際,患部が解剖学的に深部に位置し,翼突筋静脈叢からの出血のため悪視野での操作になることや,頭蓋底が近いことによる恐怖心のために,切除ラインがあいまいになる恐れがある。
一方,嗅神経芽細胞腫など鼻腔中央部の悪性腫瘍に対して,内視鏡下手術用ドリルを用いた内視鏡下経鼻的摘出術が頻繁に報告されている1)。そこで,当科では内視鏡併用での上顎全摘術を施行している。内視鏡併用の有用性は,①内視鏡下の良好な視野のもとで鼻腔底や鼻腔後端の軟部組織の切断を行える点2),②翼状突起などの骨切りを行う際に正確な切除が可能となる点,が挙げられる。翼状突起頭側は中頭蓋窩底に近接しているため,恐怖心からノミの方向が尾側にずれがちである。また,上顎骨内側後方には口蓋骨があるが,口蓋骨が厚いため,外部からのノミの圧力に対して薄い上顎洞方向に骨折ラインが形成されてしまうことがある。あらかじめ,鼻腔内から骨切りラインをドリルで削開しておけば,恐怖心なく,想定通りの骨切りラインで翼状突起を切断することが容易となる。内視鏡を併用し,正確な切除ラインで上顎全摘を行うことによる,上顎洞悪性腫瘍の局所再発率の低下が期待される。
【文献】
1) Folbe A, et al:Am J Rhinol Allergy. 2009;23 (1):91-4.
2) 加藤孝邦, 他:頭頸部外. 2005;15(1):17-22.
【解説】
荒井康裕,*折舘伸彦 横浜市立大学耳鼻咽喉科・ 頭頸部外科 *教授