このところ自然科学系のノーベル賞を日本人が次々と受賞している。今回もノーベル医学・生理学賞を日本人が受賞した。受賞者の大隅氏は今後の日本の基礎研究の空洞化を真剣に心配していることを口にしていた。国の方針では、短期間で実用化につながる成果の出る研究を支援する傾向が強くなっているためである。
最近の医学部医学科における教育は、昔私たちが受けた医学教育と比べて大きく変化している。当時は大きく分けると、2年間の教養学(1、2年生)、2年間の基礎医学(3、4年生)、2年間の臨床医学(5、6年生)で構成されていた。教養学の2年間は人生にとって大きな意味があったと今にして思う。2年間という時間的な余裕があったため、自然科学、人文科学、語学(英語、ドイツ語、フランス語、中国語など)の中で、必修科目と自由選択科目から、幅広い領域の学問を勉強する機会に恵まれていた。語学は英語、ドイツ語は必修であったが、フランス語、中国語も面白そうだったので選択科目で選択した。
クラブ活動(私の場合は剣道)に熱中する時間も、様々な書物を読む時間も十分にあった。2年間で取得すべき単位を早期にとってしまい教養学最後の半年間は自由な時間を謳歌していた同級生もいた。一見長すぎて無駄と思える余裕ある教養学の2年間は、今から思うと輝いて見える。この時間が、卒業後の長い医師としての人生の人格的基礎を形成するためには大事な時間であったように思う。
教養学が終われば3、4年生は基礎医学である。解剖学、病理学、生理学、生化学、薬理学、微生物学など医学の基礎を2年間できっちりと学んだ。5年生になってようやく臨床医学の系統講義、臨床講義が始まった。6年生は各臨床講座を回る臨床実習であった。
時代とともに教育方法は大きく変化し、最近の医学教育では、勉強すべき医学知識が膨大なものになってきているため、臨床医学を学ぶ時期を前倒しして、その時間を確保している。その結果、基礎医学を学ぶ時間がかなり短くなり、さらに基礎医学専攻を希望する医師も激減している。私自身は臨床医であるが、基礎医学分野の教員を増員し、基礎医学教育時間の拡大と充実を図ることが、基礎医学にしっかりと裏打ちされた臨床医学の発展に繋がると考えている。
今後の日本の医学・医療をさらに発展させるためには、基本に立ち返り、まずは基礎医学分野の充実に力を入れていくことが鍵を握るように思える。