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総合診療専門医制度への私見 [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.26

山下秀一 (佐賀大学医学部附属病院病院長)

登録日: 2017-01-01

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いろいろともめてはいるが、19番目の専門医として総合診療専門医が制度化されようとしている。人口の高度高齢化と多死社会の到来に向けて、プライマリケアを担当し、自宅での看取りまでを担当する、いわゆる家庭医を想定した制度設定の方向に進んでいる。日本プライマリ・ケア連合学会の方向性も家庭医療を重視しているように見える。これは一人暮らしの高齢者が、医療機関を受診することもできずに自宅で孤独死する事態が多数発生することが予想される、例えば東京や大阪などの大都市では非常に有用な制度と思われる。しかし、佐賀県のような地方県では事情はまったく異なる。

佐賀県では、いわゆるプライマリケアを担当する開業医は島嶼を除く県内のほとんどの地域で充足しており、現状でも立派に日常の診療をこなしておられる。不足しているのは、プライマリケアを担当する医師が要入院と判断した患者を紹介する二次医療機関の、ある程度の重症患者を担当できる一般内科医である。このため、たとえば肺炎の患者を紹介しようとすると、「呼吸器科医がいない」という理由で断られて途方に暮れる事態となっている。肺炎は一般内科疾患である、という当たり前の概念すら崩壊しつつある。この状況で求められる総合診療医は、決して家庭医ではなく、内科全般にわたる入院患者をある程度の重症疾患まで担当できる、いわゆる病院総合内科医である。しかしながら、病院総合内科医を総合診療専門医のアイデンティティーの中心に据えようという発想が出てくる雰囲気はまったく感じられない。

佐賀大学の総合診療部は創立30年を迎えたが、プライマリケアを中心とする総合外来に加え、24時間の徒歩来院患者の救急と、重症で複雑な病態の患者の入院医療に携わっている。病院総合内科医を総合診療医の主たるアイデンティティーに設定し、プライマリケアを担当する医師が困った時の支えとして機能できる医師を、長い年月にわたり数多く育成してきたのである。入り口を担当する医師と看取りの医師ばかりでは、医療経済的には医療費削減に有用であるが、地域住人に安心の内科医療を提供することには十分ではないと考えている。

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