皆さん、日本職業・災害医学会というものをご存じだろうか。災害ならびに職業性疾病に関する臨床医学的研究により、医学の発展および勤労者の福祉に寄与することを特徴とする日本医学会に加盟を認可されている学会である。主な構成員は、災害医学を専門とする大学の救命救急センターの先生、勤労者医療を展開している労災病院の医師や看護師などの医療従事者、産業医の先生、職業に関する疾病を研究する研究員などである。
昨年は、仙台において第64回日本職業・災害医学会が開催された。あの東日本大震災から5年が経過し、その災害からの復興と地域医療の再生を目指すことを主題とした。間もなく震災から6年になろうとしているが、沿岸部における街の再生は手付かずのところが多い。
昨年の本学会では、東日本大震災時に医療機関はどのように行動したかを検証し、来るべき南海トラフ地震や東京直下型地震への医療対策を構築するために、特別講演とシンポジウムを行った。1978年の宮城県沖地震で多くの命を失い、建物が倒壊したので、地震には十分に対策を講じていたが、その33年後の東日本大震災は津波の被害が大きかった。10年ほど前から30年以内には必ず大地震が起こるといわれていたが、これほど大きな津波が起こるとは予想できなかったのである。関東地方や東海、中部地方にも必ずやってくるその日のために、対応力を高めておく必要がある。そして、日本国中どこにでも自然災害はやってくると肝に銘じておかなければならない。
現在、労働者は社会の様々なストレスにさらされながら、または、がんや慢性疼痛などと闘いながら働いている。これらの労働者の働き方を医療の面から支えていこうというのがもうひとつの主題であった。国が提唱した「ストレスチェック制度」と「治療就労両立支援」について活発な議論が交わされ、未来の働き方に希望が持てる学会であった。職場における労働者の心の健康を維持する取り組みが重要であり、医療関係者はこれを支える礎になる必要がある。