さて医学の道を歩むものとしては誰でも、毎年どの国の、どの科学者にノーベル医学・生理学賞が輝くのかと大変興味深く期待しているものであるが、昨年も一昨年に続き、日本人が受賞した。オートファジーの研究者である東京工業大学の大隅良典教授である。苦節を重ね、一心不乱に人生を賭けたオートファジー研究の集大成であろう。細胞のエコシステムとも言えるオートファジーは細胞生物学に大変重要なメカニズムである。私自身、心筋の虚血再灌流障害の研究を30年も前から行ってきたが、ネクローシスやアポトーシスとともにオートファジーも当時より大変興味を持っていた。
ただ残念ながら、私の研究は治療すなわち再生医療へと進化したので、ほとんど関わりはなかったが、最近再び心疾患とオートファジー研究に携わりはじめていた。なぜかと言えば、大隅教授の一番弟子である吉森教授が本学にいらっしゃるからである。吉森教授はほ乳類でのオートファジーの最初の証明者であり、大隅教授との共同受賞でなかったことが悔やまれるが、彼を中心に大阪大学医学部ではオートファジーセンターが設置されており、オートファジーの今後の大きな展開や治療介入につながることが大変期待される。
前述のごとく、私たちは心筋の再生医療開発を行い、iPS細胞による心筋再生治療の臨床応用を目前に研究開発しているが、iPS細胞は2006年の発見以来過剰な期待の中で、最近ようやくその成果が出はじめており、従来の治療法で治らなかった人が治る時代に入ってきている。もちろん、iPS細胞と言えば2012年に、盟友の山中伸弥教授がノーベル賞を受賞されたことは記憶に新しい。
オートファジーは実に巧妙かつ戦略的なメカニズムであり、生命が持つ神秘と言うより、細胞が持つしたたかさという表現がふさわしいとさえ感じる。そのような生命の持つメカニズムを科学の力、基礎医学のポテンシャルが解明し、新しい医療へとつながる時代になってきた。生命の営み、仕組みは無限であり、その壁への本能的ともいえる科学者の限りない挑戦は、1つの壁が克服されればされるほど、いっそう高まっていくだろうと、ノーベル賞の時期にいつも感じる。