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腹腔鏡下手術の危うさ [炉辺閑話]

No.4837 (2017年01月07日発行) P.69

髙山忠利 (日本大学医学部長)

登録日: 2017-01-03

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肝胆膵癌に対する腹腔鏡下手術についてコメントを求められるたび、私はいつもこう答えている。「易しい問題を敢えて難しく解いている、しかも高いコストをかけて」と。

低侵襲とうたわれ急速に広まっている手術法だが、肝胆膵の領域においてはむしろ高いリスクを伴っている。「傷が小さく術後の痛みが少ないので体に優しい」ともいわれ、開腹に比べて術後在院日数が短い、出血量や合併症が少ないといったデータが出ているのも確かだが、肝胆膵領域においてその信頼性はきわめて乏しい。最近発覚した数多くの手術死亡の内容を見れば、手術としての危うさは明白であろう。

一番のデメリットとしては、やはり触覚がないことだ。肝臓・膵臓は出血のリスクが高い「立体の手術」だ。開腹して手術を行う場合、肝臓全体を見て手に載せながら切っていけば「ここは出血しやすい危険な箇所だ」と直感でわかる上に、両手を直接的に使えるので咄嗟に出血をコントロールすることも可能だ。さらに、腹腔鏡下手術では、拡大視があることで逆に全体が見えなくなり、大きな血管を誤って切ってしまうという「木を見て森を見ず」の手術ミスにつながることもある。もうひとつのデメリットは、開腹に比べて2~3倍の医療費がかかることだ。

肝胆膵癌手術の目的は、がんを根治的に切除し、患者さんに元気で長く生きてもらうことだ。私にとって手術の最優先事項は「安全性」である。開腹で行えば安全に施行できる手術を、危険を冒して腹腔鏡下で行うのは本末転倒である。それはきっと目新しいものにひかれ、流行に流されているからではないか!? 私に言わせれば腹腔鏡下肝切除のクオリティーは開腹に比べ格段に低く、先進的どころか後進的な状況であると思っている。

患者さんの利益を最優先に考え、安全性を第一に考えた堅実な手術を行うこと、これが外科医の義務であると私は思う。

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