概要:本章では、2016年度の診療報酬改定について、新旧点数と厚生労働省「社会医療診療行為別調査」の算定回数により、診療報酬改定の影響シミュレーションを実施し、診療所(診療科別)、病院(種類別)の改定インパクトを試算した。(詳細は注意書き参照)
まず目につくのは、診療所の改定率が全体では0.05%とプラス改定ではあるがほぼ横ばいとなったことである。本来、診療報酬本体部分は+0.49%(医科本体+0.56%)と一定のプラス改定が見込まれていたこととは一致しない結果となった。一方、病院全体では+0.42%と新規設定点数を加味しなくても計画に近いプラス改定となることがわかった。また病院と診療所を合わせた医科全体の改定率を試算してみると+0.30%と、新規設定点数を加味しないシミュレーション結果は、医科本体で見込まれていた改定率を下回るものの、一定のプラス改定となることが確認できた。
つまり、シミュレーションとしては政策における本体部分プラス改定という結果を病院について確認できた一方で、診療所については横ばいの改定であったことが明らかとなった。診療所にとって今回の改定を経営面でプラスに転じさせるためには、数少ない新規設定点数や再度大きく枠組みの変わった在宅医療への取り組み姿勢が勝負となりそうである。次に診療所の各科別に診療報酬改定のインパクト(表1)を確認していきたい。
かかりつけ医になるかがテーマ
内科は、全体では+0.08%と若干のプラス改定。その内訳は検査+0.07%(単体[以下同]+0.40%)、投薬+0.02%(+0.06%)、注射+0.03%(+0.92%)、処置▲0.02%(▲0.59%)と細々としたプラス改定の積み重ねとなっていることがわかった。それぞれの具体的な項目では、検査が血液化学検査(10項目以上117点→115点)をはじめとして生化学的検査や免疫学的検査などが減算となった一方で、血液採取(静脈20点→25点)の加算が大きく、細菌培養同定検査(各種)も加算されたことでプラスとなった。また投薬では処方箋料(一般名処方加算1 3点)の新設がプラスに働き、注射では皮内、皮下及び筋肉内注射(18点→20点)と静脈内注射(30点→32点)、点滴注射(各種)の増点が大きい。また、処置は人工腎臓(慢性維持透析4時間未満:2030点→2010点ほか)の減点がマイナスに効くことがわかった。
以上のように既存の外来診療報酬については小幅な改定にとどまる一方で、内科系の診療所には、2つの大きなトピックがある。1つは地域包括診療料/加算、もう1つは在宅医療である。在宅医療については第2項で詳しく説明するので、ここでは地域包括診療料/加算について説明を加えておきたい。
今回の改定では地域包括診療料/加算の施設基準(⇒用語解説)における常勤医配置要件が緩和(3人→2人)された。また地域包括診療料/加算に上乗せされる形で、「認知症地域包括診療料/加算」が新設。認知症+1疾患を有する患者について、当該医療機関がかかりつけ医として継続的かつ全人的な医療提供をしていくことが目的とされている。同点数の新設と在宅医療の制度が整いつつあること、そして地域包括ケアのシステム作りが並行して進んでいることから、内科系診療所の今後の戦略として、「地域のかかりつけ医になるかどうか」が重要なテーマになる。このかかりつけ医の定義についても、夜間・休日対応や24時間の電話対応、常勤医2名以上の確保などが原則となっているため、内科系診療所にとっては厳しい選択肢となってきている。
用語解説
地域包括診療料/加算と認知症地域包括診療料/加算は施設基準が同一のため、当該患者についてどちらを算定するかは医療機関の判断による
小児かかりつけ診療料は算定したい
小児科は、全体の改定率0.07%と内科と同程度の若干のプラス改定となった。内訳で見ても全体に大きな影響を与える項目はなく、また小児科特有の項目での加減算も見られず、基本的には内科に準ずる結果となった。内訳を列挙すると検査0.03%(+0.33%)、投薬0.02%(+0.13%)、注射0.01%(+1.59%)となる。個別には、検査では血液採取(静脈20点→25点)と細菌培養同定検査(各種)、投薬では処方箋料(一般名加算1 3点)の新設、注射は皮内、皮下及び筋肉内注射(18点→20点)と静脈内注射(30点→32点)・点滴注射(各種)のプラス改定が効いている結果となった。
小児科については、「小児かかりつけ診療料」が新設された。これは、何らかの理由で継続的に受診している未就学児のかかりつけ医として、健康診断や予防接種、成長・発達に関しての総合的な情報収集とアドバイスを行うことが求められている点数である。また時間外対応や常時の電話対応が求められるなど、ここでも内科系の地域包括診療料に近いかかりつけ医のあり方が定められている。点数としてのハードルは高い一方、決して高い点数とは言えないが、少子化が続く中で、確実に患者を確保するためには経営上の選択肢として検討せざるを得なくなってくる可能性は否定できない。
検査・注射で若干のプラス改定に
外科も全体の改定率が0.05%と若干のプラス改定となった。内訳でも全体に影響を与える項目は見当たらない。しかし、個別に見るとマイナス改定としては画像診断▲0.07%(▲0.56%)、リハビリテーション0.01%(▲2.29%)があり、プラス改定は検査0.04%(+0.28%)、注射0.04%(+0.75%)、在宅医療0.03%(+0.63%)がある。画像診断は低スペックCT(4列以上16列未満:770点→750点)、低スペックMRI(1.5テスラ未満:920点→900点)のマイナス改定が効いており、リハビリテーションは要介護被保険者への維持期リハビリテーションの減算幅の拡大(100分の90→100分の60)がマイナスに効いていることがわかり、検査、注射、在宅は内科と同様の項目が効いていることがわかった。
介護保険へのリハビリ移行の検討が求められる
整形外科は、0.18%と診療所の中では2番目に高いプラス改定となった。その内訳は在宅医療+0.06%(+2.65%)、注射+0.02%(+0.11%)、リハビリテーション0.04%(+0.42%)と画像診断▲0.01%(▲0.11%)である。在宅医療は在宅自己注射指導管理料で月間回数が少ない場合の点数が増点となったことが効いている。
また、注射は皮内、皮下及び筋肉内注射と静脈内注射、点滴注射が増点となり、リハビリテーションは要介護保険者への維持期リハビリテーションは減算となる一方で運動器リハビリテーションⅠの増点(180点→185点)がプラスに働いた。また外科同様に画像診断では低スペックCT、MRIの減算がマイナスに効いている。
整形外科の診療所の中には、通所リハビリテーションや訪問リハビリテーションなどの介護保険系リハビリテーションを提供しているところが多い。今回の改定では、その法人が介護保険のリハビリテーションを提供しているかどうかで、維持期リハビリテーションの減算幅(⇒用語解説)が異なる改定となった。
一応、今回の改定で維持期リハビリテーションの介護保険への移行がさらに2年延長とはなったが、すでに介護保険系のリハビリテーションを手がける医療機関にとっては、医療から介護への円滑な移行について検討を進めることが求められている。
用語解説
改定前は介護保険のリハビリ実績の有無にかかわらず所定点数の90%を算定できたが、改定後は実績がある場合は60%、ない場合は80%を算定
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