【質問者】
鈴木健司 順天堂大学医学部呼吸器外科教授
腫瘍径2cmはリンパ節転移の頻度や予後などを左右する重要な値と考えられ1)2),縮小手術の適応限界の指標です。ところが,腫瘍径のみにより術式を決定することは危険であり,画像による腫瘍の質的診断を加味することが重要です3)。
腫瘍径が1cm以下であっても時にリンパ節転移が存在するため,リンパ節評価ができない部分切除の選択は腫瘍径だけで行うことは避けるべきです。それに対して,腫瘍径が2cmを超えても,非浸潤癌であれば縮小手術で対処できるものもかなり存在します。
高分解能CT(high-resolution CT:HR-CT)でのすりガラス状陰影(ground-glass opacity:GGO)が肺腺癌におけるlepidic growth component,すなわち悪性度をかなりの確率で反映することから,小型肺癌におけるGGO率は重要です。最近ではHR-CTにおけるsolid成分の腫瘍径やPET-CT(positron emission tomography-CT)でのmax SUV(standardized uptake value)によって小型肺癌の悪性度を推定できると考えられています4)5)。また,肺癌に対する縮小手術では温存肺における局所再発をできる限り回避するため,十分なマージンを取らなければなりません。少なくとも,腫瘍径以上のマージンが必要とされます。
腫瘍径3cm以下の末梢型非小細胞肺癌に対する治療戦略はHR-CTとPET-CTを組み合わせて考えます6)~9)。特に肺腺癌であればGGO率が100%近い症例はリンパ節評価が不要であり,GGO率が高くmax SUVが低い症例は,必要十分なマージンを確保して部分切除(腫瘍の位置によっては区域切除)で根治可能と考えます。それ以外のGGO率が低い,またはmax SUVが高い症例ではリンパ節転移の可能性が考えられ,2cmまでは区域切除の可能性を追求し,2cmを超えると肺葉切除の適応と考えます。
さらに,胸膜面から距離のある比較的深い触知不能の未確診小腫瘤に対しても,最初から肺葉切除を行うのではなく,まず区域切除を選択し,術中迅速病理診断によって悪性を確認した後にマージンが不十分であれば,肺葉切除を考慮すべきです。
筆者は,腫瘍の存在部位によっては,右上葉でのS2b+3a切除や,結果的に下葉が分断されることとなるS9+S10切除などの複数区域・亜区域の合併切除を積極的に行っています10)。
【文献】
1) Okada M, et al:Cancer. 2003;98(3):535-41.
2) Okada M, et al:J Thorac Cardiovasc Surg. 2005; 129(1):87-93.
3) Okada M, et al:J Thorac Cardiovasc Surg. 2004; 127(3):857-61.
4) Okada M, et al:J Thorac Cardiovasc Surg. 2007; 133(6):1448-54.
5) Nakayama H, et al:Cancer. 2010;116(13): 3170-7.
6) Tsutani Y, et al:Chest. 2014;145(1):66-71.
7) Tsutani Y, et al:J Thorac Cardiovasc Surg. 2013; 146(2):358-64.
8) Tsutani Y, et al:J Thorac Cardiovasc Surg. 2012; 144(6):1365-71.
9) Okada M, et al:Interact Cardiovasc Thorac Surg. 2012;14(1):5-11.
10) Okada M, et al:J Thorac Cardiovasc Surg. 2007; 133(3):753-8.
【回答者】
岡田守人 広島大学原爆放射線医科学研究所腫瘍外科 教授