2014年の肝臓病学で目覚ましく進歩したのは,まずC型肝炎ウイルスの排除には,従来インターフェロン(interferon:IFN)注射が基本であり,それに免疫賦活剤などを併用するものであったのが,経口剤2剤の組み合わせでウイルスを完全に排除できる可能性が出てきたことである。しかし,この治療の対象は当然IFNの副作用に耐えられない高齢者や,線維化の進行例(肝硬変の初期)などと考えられる。ここで問題になるのが,今までの経験でも知られているように,ウイルス排除がすぐに発癌予防に直結するかである。この点は,今後の検討課題である。
また年々,生活習慣と関連してウイルス以外の病因による肝癌が増加しており,その代表例が非アルコール性脂肪肝炎(肝炎)から進行した肝硬変・肝癌の増加である。肥満者であれば,食事・運動療法で減量が基本であるが,日本人ではあまり太っていなくても脂肪肝がみられる場合があり,これらへの対応が問題である。肝硬変の初期であれば,炎症・線維化の原因が排除されると線維化が軽減されるが,ある点(point of no return)を過ぎると,原因が排除されても肝機能悪化や肝癌になることは現場ではよく経験することである。
筆者らの開発した,自己骨髄細胞を用いた肝臓再生治療(ABMi療法:非培養)は,先進医療Bとして認可され,IFNや経口2剤の治療適応でない非代償性の肝硬変患者での有効性を無作為比較試験で検証する。より進んだ肝硬変の患者には,少量の骨髄液中の間葉系細胞を体外で培養増殖し患者に再び戻す治療法も2014年に正式に臨床研究として承認され,準備が整い次第開始する予定である。これは世界初・日本発の治療法であり,肝機能改善や肝癌抑制に繋がるか(動物実験では発癌抑制効果あり)を実際の臨床で検証する段階にまでようやくたどりついた。
C型肝炎に対する抗ウイルス療法は飛躍的に進歩している。1992年から開始されたIFN単独療法では,遺伝子型1型・高ウイルス量の慢性C型肝炎におけるウイルス排除(sustained virological response:SVR)率は10%未満であったが,ペグインターフェロン(pegylated interferon:Peg-IFN)+リバビリン(ribavirin:RBV)併用療法の登場により,SVR率は約50%に上昇した1)。さらに,近年C型肝炎ウイルスに直接作用するdirect-acting antiviral agent(DAA)が登場し,治療効果が飛躍的に向上した。現在開発中のDAAには,NS3/4Aプロテアーゼ阻害薬,NS5A阻害薬,NS5Bポリメラーゼ阻害薬があるが,わが国では2011年11月からプロテアーゼ阻害薬テラプレビル(telaprevir:TPV)が使用可能となり,Peg-IFN+RBVとの併用により,1型・高ウイルス症例でもSVR率は73%に上昇した。2013年12月からはシメプレビル(simeprevir:SMV)がPeg-IFN+RBVと併用で可能となり,SVR率は約90%とさらに上昇した2)。
一方,高齢者や肝硬変患者では最新のIFN治療は困難であり,合併症によりIFN治療ができない患者も多く存在する。また,最新のIFN治療でもPeg-IFN+RBV併用療法無効例に対する効果には限界がある。これらの症例に対し,2014年9月からIFNを用いないプロテアーゼ阻害薬アスナプレビル(asunaprevir:ASV)とNS5A阻害薬ダクラタスビル(daclatasvir:DCV)の併用療法が可能となった。1型の症例に使用可能であり,SVR率は84.7%と高率であった3)。さらに今後も新たなDAAが登場する予定で,治療効果はさらに上昇すると考えられている。
SMVは強力な抗ウイルス効果を有し,副作用も少ない薬剤で,Peg-IFN+RBVとの併用により使用可能であり,日本肝臓学会による「C型肝炎治療ガイドライン(第3.2版)」でも1型・高ウイルス量に対し,IFNを含む治療を選択する際は第一選択の治療となっている。実際の治療法は原則24週間の治療期間で,初めの12週間はSMVを1日1回内服,Peg-IFNを週1回皮下注,RBVを1日2回内服し,引き続き12週間Peg-IFN+RBV療法を行う。
わが国における臨床試験の成績では,Peg-IFNα2bを用いた試験でSVR率は,初回治療例91.7%,前治療再燃例96.6%,前治療無効例38.5%であった2)。
有害事象としては,Peg-IFN+RBV併用療法で認められるもの以外では,軽度のビリルビン上昇のみであり,治療継続にて軽快している。
DCV+ASV併用療法の治療対象者は1型の慢性肝炎および肝硬変(代償性)症例で,IFN不適格例(リウマチやうつといった合併症などでIFN治療が施行できない症例),IFN不耐用例(過去のIFN治療の際に副作用のため治療が継続できなかった症例)およびIFN無効例である。実際の治療法はDCVを1日1回,ASVを1日2回,24週間内服する。
わが国における臨床試験の成績では,SVR率はIFN不適格/IFN不耐容例で87.4%,IFN無効例で80.5%であった3)。IFN無効例に対しても高いSVR率を認めており,有用な治療と期待されている。一方で,DAAには耐性変異が存在し,DCV+ASV併用療法においても,L31MやY93H,D168Eといった変異が治療効果低下に関連することが判明している。試験において治療前に耐性変異が検出された症例でのSVR率は約40%であった。
有害事象としては,鼻咽頭炎,頭痛,肝機能異常(AST/ALT上昇),発熱などが認められた。Grade3/4のALT上昇を7.2%,AST上昇を5.4%認めており,実臨床でも注意が必要と考えられる。
【文献】
1) 岡上 武:治療学. 2008;42(1):106-9.
2) 鈴木文孝, 他:肝臓. 2013;54(Supple 1):A157.
3) Kumada H, et al:Hepatology. 2014;59(6): 2083-91.
残り4,033文字あります
会員登録頂くことで利用範囲が広がります。 » 会員登録する