認知症治療薬は病態そのものの進行を抑制する薬剤ではない。
適切なリハビリテーション介入を行った上で薬物療法を開始する。
薬物療法は薬物管理と有害事象発見が可能な体制で使用する。
アルツハイマー型認知症(Alzheimer’s disease:AD)(DSM-Ⅳ)を初めて報告したのはA. Alzheimer(1906年)であるが,60年代までは,高齢者の認知症とADは異なる疾患だと考えられていた。しかし,平均寿命が延びるにつれ,高齢者でも認知症にならない人が多数いることがわかり,加齢によるものではなく疾患であるという考えが広がっていった。
その後,電子顕微鏡の発達によって,アミロイド沈着と神経原線維変化というADの神経病理像が見つかり,70年代にはアルツハイマー神経原線維変化(paired helical filament:PHF)の構成成分が同定され,80年代には沈着するのはアミロイドβ42であることがわかった。
92年にJ. Hardyが家族性ADの家系からアミロイド前駆体蛋白質の変異を発見し,それをもとに「アミロイドの蓄積が神経原線維変化,神経細胞の脱落,認知機能の低下を引き起こす」というアミロイドカスケード仮説1)を提唱した。この仮説は,現在のAD研究のコア理論である。
83年,世界初のAD治療薬ドネペジルがわが国で開発された。わが国では,99年にドネペジル,2011年にガランタミン,メマンチン,リバスチグミンと4剤が承認されている。しかし,これらはすべてアミロイドカスケードの最下流に位置する薬剤であり,ADの病態そのものの進行を抑制する薬剤ではない。現時点では,認知症治療薬とはAD治療薬を意味する。
現在,アセチルコリンエステラーゼ(acetylcholine esterase:AChE)阻害薬とNMDA(N-メチル-d-アスパラギン酸)受容体拮抗薬があり,それぞれ仮説が提唱されている。
ADでは,アセチルコリン(ACh)の低下とACh合成酵素であるコリンアセチルトランスフェラーゼの活性低下およびCh作動性神経の起始核であるマイネルト基底核領域におけるCh作動性神経の顕著な脱落がみられ,Ch作動性神経機能の低下が認知機能の低下に関連していると考えられている。コリンエステラーゼ(ChE)阻害作用を通してAChの濃度を上昇させ,Ch作動性神経の機能を高めることにより効果を発揮する2)。
持続的なNMDA受容体の活性化により,シナプティックノイズが増大した状態では,シナプス可塑性変化を誘導する伝達シグナルがノイズに隠れ,情報が伝わりにくくなると考えられる。そのシナプティックノイズを解消し,正常なシナプス可塑性変化の誘導を回復することによって認知機能改善作用を示す3)。
現在,開発が進められている次世代のAD治療薬(表1)はアミロイドカスケードの上流に位置するもので,大きく4つにわかれる。そのうち3つはアミロイドの蓄積を抑えることで症状の進行を止めようとする抗アミロイド療法,1つは神経原線維変化を作るタウ蛋白に対する抗タウ療法である4)。抗アミロイド療法は,アミロイドが蓄積していない早期から開始する必要があるが,抗タウ療法はAD発症後でも効果が期待できる。
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