人がメンタルを病むきっかけとして,意外と軽視されているのが「変化」です。
私たちはストレスという言葉を何気なく使っていますが,「ストレスとは嫌なこと,辛いこと,苦しいことが起こること」と考えている人も多いようです。しかし,ストレスの原因はそれだけではありません。
まず表4をご覧下さい。ストレスになりうる事柄を列挙しました。昇進,結婚,引っ越しなど一見ストレスとは関係がないような喜ばしいことも入っているため,意外に感じる方も少なくありません。
実はストレスの原因は「変化」なのです。嫌なこと,辛いこと,苦しいことはもちろん,一般に良いこと,おめでたいこととされている変化もストレスの一種なのです。なぜかと言うと,どのような変化であれ何か今までと違う状態になると,私たちは気力や体力を使ってそれに馴染もうとします。その結果,普段より心身のエネルギーを使うことになり疲労が発生するのです。
たとえば,表4にある一見おめでたい変化である「結婚」を考えてみましょう。
結婚の場合,女性の多くは新居に引っ越しをします。すると,いつもと違う場所から出勤することになるため朝起きる時間や乗る電車も変わってきます。今までの出勤経路は半無意識的に身についていて居眠りしながらでも勤務先に到着できていたのに対し,新しい勤務先へは電車の時間の兼ね合い・経路など,しばらく気を遣って通勤しなければなりません。
また,結婚後は当然新しい生活がスタートします。家事の量も増えますし,自分1人だけの気ままな生活から夫との共同生活になるため調整事項も増えます。結婚後は親族を含め付き合う人間関係も大きく変化し,今までとは違うプレッシャーや気遣いが発生します。新居がこれまで馴染みのない土地であれば,買い物に行くのも慣れるまではしばらく不便ですし,新しい近所付き合いにも緊張が伴います。こうした変化に馴染むために,普段よりはるかに多くの気遣いや緊張,体力を使ってしまい心身が疲労するのです。
その他の昇進,栄転,就職,転職,引っ越し,出産などのうれしいこと,おめでたいこと,たとえプラスの変化であっても,すべてストレスの原因となりえます。その結果エネルギーレベルが低下してしまい,様々な不調が起こってくるのです。実際,精神科の外来にも,職場での昇進や引っ越しを契機に,うつ病を発症してやってくる方がたくさんいます。
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