早め早めに職員のメンタルの異常に気づくためには,まずは代表的な心の病気であるうつ病が発生していく段階を押さえておくことが重要です。現代社会で誰でもかかりうるタイプの「ストレスが起因となって起こるうつ病」は,次のような段階を経ながら重症化していくことが少なくありません。すべてのうつ病に厳密に当てはまるというわけではありませんが,まずはパターンとして押さえておくと優秀な人材をメンタルダウンさせないための早期予防に役立ちます。〔以下の記述は,東海大学医学部精神医学・保坂隆著『産業メンタルヘルスの実際』(診断と治療社)第Ⅱ章C「ストレス状態の段階」をもとに筆者がアレンジ・解説を加えたものです〕
就職,異動,栄転,転職,昇進,プロジェクトのリーダー抜擢……こうした大きな変化が起こると,真面目な人・仕事熱心な人ほど「期待に応えられるように頑張らなくちゃ!」「早く慣れて溶け込まなくては!」「成果を出して周りに認められなければ!」などと,一生懸命頑張ろうとします。特にメランコリー親和型気質,循環性格,執着気質の傾向がある人ほど,自分のキャパシティを無視して頑張ってしまいます。すると頭の中から仕事が離れなくなり,絶えず仕事のことを考えるような緊張状態が続くようになります。いわゆるONの時間が増え,OFFの時間がなくなっていくのです。このような状態が「過剰適応状態」です。
女性の場合は仕事要因ばかりではなく,たとえば結婚,出産,子どもの受験,介護が始まるといった生活が急に多忙となった時期にこの過剰適応が起こることもあります。たとえば「親の介護が始まったので終業後は実家に寄って風呂に入れて,帰宅してから家事をして,朝は実家に弁当を届けてから出勤してくるので,最近4時間ぐらいしか寝られないの。超忙しくってー!」などと興奮気味に話しているときなどは過剰適応状態の恐れがあります。過剰適応状態のときは,周りからは仕事に集中しやりがいに満ちていたり,非常にハッスルしていたりするように見えます。しかしこの状態は一種の興奮状態,ハイテンション状態であるため,長く続けば続くほど心身のエネルギーが消耗していくのです。
上司や使用者の方は,こうした「はりきりすぎ」「頑張りすぎ」の職員がいたら,食事,睡眠,運動,リラックスなどの基本のセルフケアがおざなりになっていないかをチェックして下さい。特にこうしたエネルギー消費の高い状態のときには,食事と睡眠が非常に大切です。3食きちんと食べているか,しっかり6時間以上眠れているかなど尋ねてあげて下さい。「無理をしすぎているな」と感じるようなら,業務の負担を減らす,早く帰る日をつくらせるなどして,心身の疲労を重ねさせない工夫が必要です。プライベートの負担が一気に急増した部下に対しては,その問題がある程度落ち着くまで,新しい責任や職務を与えない,仕事量を増やさないなどの配慮をしてあげて下さい。
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