米国以外の多くの国では,医療は社会保障制度の一環とされ,わが国に類似した「互助的」な保険制度が整備されている。わが国では,「医は仁術」として,医療を単純なビジネスとは切り離して考えてきた。世界に冠たる国民皆保険制度は,医師の生活を保障するとともに製薬企業,医療器具業界をも守ってきた。このように社会に守られた存在であるため,医学教育の過程においても高い倫理規範を有する専門職としての医師の育成が重視されてきた。
社会保障制度が「守っている」のは,医師のみではない。製薬企業,医療器具業界などの医療関連産業も,社会に守られた存在であることを再認識すべきである。企業には激烈な競争に打ち勝って株主に十分な配当を支払うという目的もあり,企業経営者が国際的な経済競争に打ち勝つことを重視する環境に置かれていることは理解できる。しかし,社会に「守られている」医療関連産業は,経済的な自由競争で律してはならないと筆者は考える。
企業の「競争」は,アダム・スミス以来の「見えざる手」による市場の安定と社会の進歩のために重要かもしれないが,「競争」の対象となる原資は,「弱者」である患者を守るために「政府」が特別に用意したリソースであることを忘れてはならない。
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