いつも病院の先生方には大変お世話になっております。診療所では、病院を退院し自宅に戻られた患者、外来通院が困難となった患者の訪問診療依頼を広く受け入れており、慢性疾患やがん終末期の患者が毎日のように紹介されてきます。
自宅に帰ってきて最初の訪問診療。初対面のご本人は冴えない表情で「大丈夫です、痛くありません」「このくらいの苦しさは我慢できます」と話され、気丈に振る舞われています。ところが、オピオイドを使った疼痛コントロールなど、ごく基本的な緩和医療を導入するやいなや、患者の態度は一変します。
「こんなに楽になるのなら、もっと早く帰ってくればよかった」「辛いのでもう病院には行きません」。こうした言葉を、ご本人やご家族から何度聞かされたことか。苦痛の表情が笑顔に変わり、涙を浮かべる患者もいます。
がんの根治を目標に治療すること、それによって延命を図ることが、がん治療の基本戦略であることに異論はありません。それに加えて、患者ご本人の症状緩和を図ること、不安や苦痛を和らげることもまた、治療の重要な戦略のひとつです。がん治療と緩和医療は両立するものであり、どちらもおろそかにしてはなりません。
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