高齢者のうつ病は,注意・集中力や判断力の低下により一見認知症のように見えるため,仮性認知症と称される
うつ病の診断には,抑うつ気分,興味・喜びの喪失,易疲労感,生活リズムの障害の有無について確認を行う
認知症によくみられるアパシーと抑うつ症状を区別する
高齢者のうつ病は,自殺のリスクに注意する
高齢者のうつ(病)は,認知症の危険因子であり,経過を注意深く観察する
高齢者のうつ病発症には,身体疾患や脳の形態・機能的変化などの身体要因とともに,離別や離職,生活環境の変化などの心理・社会的要因が複合的に関与すると考えられている。症状は,若年者と比較して,物忘れ,痛み,頻尿,便秘,口腔内異常感などの身体的愁訴が前景に立つことが多い。高齢患者は,複数の身体疾患を併存する割合が高く,どこまでが身体症状でどこからが精神症状か判別が困難なことがあり,また,集中力や注意力の減退により認知症との鑑別が難しい症例も少なくない。物忘れを主訴とする高齢者の診療においては,認知症とうつ病との鑑別は,その後の治療方針を決定する上で重要である。
認知症とうつ病との鑑別が問題となった自験例を提示し,鑑別のポイントを解説する。なお,個人情報保護のため,内容の一部を改変している。
72歳,女性。夫と二人暮らし。
【既往症】脊柱管狭窄症
【現病歴】元来,社交的で習い事や町内会の役員を積極的に行っていた。X-2年,下肢のしびれと痛みが出現し,近医整形外科で脊柱管狭窄症と診断され,通院加療中であった。X年1月,下肢のしびれと痛みを理由に習い事や役員を辞め,買い物を含めて外出の頻度が減った。家の中でも活動性が低下し,夫に対して盛んに物忘れを口にするようになった。夫に付き添われ,X年10月,A病院物忘れ外来を受診した。
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