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うつむきで悪化する頭痛の機序

No.4691 (2014年03月22日発行) P.55

永関慶重 (斐水会ながせき頭痛クリニック院長)

登録日: 2014-03-22

最終更新日: 2017-08-03

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【Q】

本誌No.4672,p43に頭痛が「うつむきで悪化する場合は副鼻腔炎」とあるが,頭痛悪化の原因は①うつむいている姿勢に起因するものか。②頭位変換という運動に起因するものなのか。
頭痛がうつむきで悪化するメカニズムについて。(新潟県 Y)

【A】

副鼻腔内の粘膜は三叉神経支配であり,副鼻腔炎により炎症産物(膿)が貯留し充満すると,うつむきにより空洞内の静脈圧が上昇するため三叉神経への機械的刺激が増強し,頭痛が悪化する。
副鼻腔炎による頭痛では,体動時,特に前かがみになると頭痛が増強するという特徴がある。質問の内容から「うつむきで悪化する場合は副鼻腔炎」の悪化の原因は①うつむいている姿勢に起因するものであると考えるほうが症状の特徴として説明しやすい。そのメカニズムについて説明する。

自験例における副鼻腔炎による頭痛の特徴

2004年に発表された国際頭痛分類第2版(以下,ICHD–Ⅱ)1)の11に「頭蓋骨,頸,眼,耳,鼻,副鼻腔,歯,口あるいはその他の顔面・頭蓋の構成組織の障害に起因する頭痛あるいは顔面痛」が分類されている。その11.5に「鼻副鼻腔炎による頭痛」が分類されている。
筆者が2003年4月に頭痛クリニックを開院以来,2013年10月までの10年半の間に,頭痛を主訴に受診した患者数は,カルテベースで2万2763例であった2)。これらの約70%に対し頭部MRIを施行したが,頭痛の原因となりうる副鼻腔炎を見逃さないために,上顎の歯列を含む部位から両側上顎洞を含め頭頂部まで水平断で撮像している。
頭痛を主訴とした総受診者のうちICHD–Ⅱに準拠して診断した鼻副鼻腔炎(以下,副鼻腔炎)による頭痛は,740例(3.3%)であった。このうち,前頭洞内に限局した例は34例,蝶形骨洞内に限局した例は41例で,ほかは,上顎洞内や篩骨洞内など片側や両側,あるいは前頭洞内や蝶形骨洞内も含め複数の鼻腔内の炎症をMRIにて確認している。
副鼻腔炎による頭痛の特徴は,従来経験したことのないような連日性の頭痛で発症し,頭を前屈する(うつむく)と痛みが悪化し,この症状が従来の片頭痛や緊張型頭痛などと違うため,心配して受診することである。
当院での蝶形骨洞内に限局した副鼻腔炎による頭痛22例中,鼻をかむ,いきむ,うつむくことにより頭痛が増強した例は11例(50%)であった3)。また,発症前から感冒症状を自覚していたのは10例(45.5%)で,黄色鼻汁は7例(31.8%)に認められた。

頭部MRIによる副鼻腔炎の診断の有用性

頭部MRIでは,図1および図2のように,FLAIR画像と比較して,Reversed Heavy T2画像(HT2)がより判別に適している。頭蓋外のエア信号と比較して明らかに判別可能な低信号として描出に優れており3),単純X線画像での不十分な診断精度と比較して,貯留した副鼻腔の部位や炎症の程度が一目で把握できる。このため,どのような姿勢でどの部位に痛みを自覚するかのメカニズムの説明に有用性が高い。

副鼻腔の解剖学的特徴

副鼻腔内の粘膜の神経支配は,三叉神経第2枝の上顎神経である。三叉神経はその走行から,蝶形骨・側頭骨の機能障害,硬膜の緊張,静脈圧の上昇などにより傷害を受ける可能性がある。急性副鼻腔炎は,主に風邪などの上気道のウイルス感染が原因で,副鼻腔粘膜の炎症による腫脹のため,開口部の閉塞が生じた後に発症する。この開口部の閉塞のため,副鼻腔の空洞内の空気が血流に吸収されると副鼻腔内部が陰圧になり,副鼻腔内に滲出液が引き込まれて貯留し,そこに細菌が繁殖する。
さらに,体液や白血球が副鼻腔に流れ込んで細菌による炎症産物(膿)が貯留することにより,副鼻腔内圧が高まり空洞粘膜に分布する三叉神経を刺激する。そのため,各副鼻腔の貯留部位や充満の程度により,前頭部,眉間部,こめかみや上顎部の痛みを惹起し,叩打痛が確認される。特に前屈などのうつむき姿勢により,副鼻腔内の静脈圧が上昇すると,さらに副鼻腔内圧が上がるため三叉神経への刺激が増強する。
自験例においては,床に落ちた物を拾う,靴紐を締めるなど前屈姿勢が90度を超えるほど,痛みが悪化することが特徴であった。
②の頭位変換という運動に起因するかについてであるが,この場合には,日常生活における種々の動きにより頭痛が増強するかどうかに注目するとわかりやすい。副鼻腔炎による頭痛の患者の場合,左右を向いたり,歩いたり,走ったり,新聞や読書などでの軽度の前屈時など通常の生活動作では痛みは増強しない。
要するに頭位変換という運動によって痛みが誘発されることは,自験例においても経験されなかった。よって頭位変換という運動に起因するというより,うつむいた姿勢に起因すると考えるほうがメカニズムとして妥当性がある。

【文献】

1) 日本頭痛学会(新国際頭痛分類普及委員会), 他:日頭痛誌. 2004;31(1):np1, 13-188.
2) 永関慶重:調剤と情報. 2009;15(9):984-8.
3) 永関慶重:日頭痛誌. 2010;36(3):248-54.

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