虐待行為は人の尊厳を損なう行為であり,通報があれば,早急に事実の存否を調査し,事実が確認できれば,早急に尊厳への介入を食い止める手立てが必要になる
高齢者に対する虐待防止のために,関連職種の連携が必要になる
虐待行為は憲法第13条に抵触する問題である
法律面からの高齢者虐待対策であるが,2005年11月9日に「高齢者虐待の防止,高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」(以下,高齢者虐待防止法)が制定されるまでは,虐待防止のための法制度は存在していなかった。高齢者介護に携わる専門職は,多くの高齢者虐待の現場に遭遇する中で,何とか目の前の虐待行為を食い止める法制度をつくれないか,法的権限をもって虐待行為の継続にストップをかけることはできないのか,と思いつつ,高齢者が目の前でその尊厳をないがしろにされ,場合によっては死に直面していくのを見ながら,手をこまねいていた。福祉専門職のいらだちが,やがて虐待防止法制定に向けた全国的なうねりとなっていった。
2005年当時,虐待防止関係の制度としては,「児童虐待の防止等に関する法律」(2000年5月24日制定),「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(いわゆる「DV防止法」,2001年4月13日制定)が制定されていたが,高齢者虐待防止法と障がい者虐待防止法がいまだ制定されていなかった。
2005年11月,国会は会期末を迎えており,何とか会期内で高齢者虐待防止法の成立を図るべく,与野党が一致協力する動きがあった。与野党の対決法案ではなく,全会一致で委員会採決,そして本会議採決として成立させることができた。この制度は,単に被害者である高齢者を救出するだけではなく,養護者支援を2本目の柱として制度化された。高齢者虐待を防止するために,今後,高齢者介護のキーパーソンである養護者に介護負担を押しつけることなく,これを支援して,社会全体が個々の高齢者の尊厳と生存を確保していくことが制度設計として採用されたのである。
なお,2011年6月17日,「障害者虐待の防止,障害者の養護者に対する支援等に関する法律」が制定され,虐待関係の法制度が出そろったことになる。ただ,同様の法律でありながら,その内容にばらつきがあり,これらを一本化する動きもあるので注目したい。
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