No.4685 (2014年02月08日発行) P.54
武知由佳子 (いきいきクリニック院長(神奈川県川崎市))
登録日: 2014-02-08
最終更新日: 2017-09-20
医療依存度の高い患者が退院する時には,安心・安全で円滑な在宅療養生活が営めるよう,在宅医療チームを集めてカンファレンス(退院時共同指導)が開催される。在宅医は可能な限り病院に出向き,主治医と直接会い,今までの経過や病状について説明を受け,在宅において人工呼吸管理を実施する上で必要な情報を集める。血液検査データ(血液ガスデータは必須)だけでなく,画像(胸部X線および病状把握のために必要な画像),生理検査(心エコー,腹部エコー,呼吸機能検査など)を閲覧し,在宅で今後起こりうることが予測できるよう,心機能,腎機能など全身状態の把握を行う。
安全管理に関しては在宅医が患者・家族を指導するが,実際に24時間現場において日常を支えるのは家族であるため,すでに病院で吸引の仕方,気管カニューレ管理,アラームの意味と対応の仕方,蛇腹の管理や交換など,しっかりと指導されている場合がほとんどである。あらかじめ,どのような指導がされているのかを病棟看護師や家族から直接聞き,在宅環境でも同じように安全に施行されているのかを確認する必要がある。医療依存度が高く重症であっても,人工呼吸器が導入されれば導入前に比べ呼吸状態は安定化し,安心して在宅療養ができるようになったと言える。
在宅医には,人工呼吸管理の一環として気管カニューレの交換に直接関与する以外に,呼吸リハビリテーションや訪問看護に対する指示など,コーディネーターとしての役割もある。このような患者には24時間体制が求められるが,通常の在宅療養支援診療所であれば対応は可能である。
訪問看護ステーション,介護事業所との協働は必須であり,生活面での身の回りのケアにはヘルパーや訪問入浴サービスを導入し,なるべく家族の負担を減らすようなマネジメントが必要不可欠である。また,ケアマネジャーは基礎資格が介護系職種であることが多く,在宅医はケアマネジャーに対して医療的内容を含めてサポートする必要がある。
在宅人工呼吸管理には,非侵襲的陽圧換気療法(noninvasive positive pressure ventilation;NPPV)と気管切開下陽圧換気療法(tracheostomy positive pressure ventilation;TPPV)が含まれる。NPPVはマスクによる人工呼吸であり,近年では神経筋疾患でも,特に筋ジストロフィー症では終生,また筋萎縮性側索硬化症(ALS)の早期などでも,排痰補助装置と併用して行われるまでになった。さらに,最近の在宅人工呼吸器はTPPVとNPPV両方の仕様になっており,インターフェイスが違うだけで,回路もモードも特に区別なく使用される。
適応や導入基準については他誌にゆずり,本稿では人工呼吸器を装着して在宅医に紹介された患者の人工呼吸器をどう読み,理解するのか,どう扱うのかなどについて概説する。
人工呼吸器は基本的に大きく分けて2種類の様式,すなわち従圧式と従量式がある。従圧式は設定した圧を保つように空気を押し込み,従量式は設定した1回換気量を押し込む。
従量式は換気量を保証する目的で使うことが多い。高度な胸郭変形がある場合には,従圧式よりも確かな換気ができる。粘稠な痰が詰まり無気肺などを起こした際の圧外傷を避けるため,最高気道内圧は30cmH2O以下になるように設定する。自発呼吸がある場合には,同調しやすい従圧式が自発吸気に応じた吸気流量や換気量を呼吸ごとに調節できるため好まれる。しかし気道分泌物が多い場合は要注意で,気道内に喀痰があると気道抵抗が増し十分な1回換気量を保証できなくなる。
そこで,最近の人工呼吸器は従圧式でも設定した1回換気量を保てるように,あらかじめ設定した最大吸気圧まで上昇するモードが開発された。患者が従圧式を好む場合は,このモードを用いるべきである。
人工呼吸管理の目的は,換気補助とライフサポート(生命維持)である。前者は自発呼吸を行う呼吸筋力が保たれている時期に行い,後者は完全に呼吸筋力が低下し自発呼吸が全廃した時期に行う。慢性期人工呼吸管理の最大の目的は,呼吸仕事量を最大限減らし,呼吸筋疲労を防ぐことである。
神経筋疾患では,いとも簡単に“人工呼吸器に完全に乗る”,すなわち完全に自発呼吸がなくなり器械換気になる。しかし,慢性閉塞性肺疾患(COPD)や結核後遺症などでも,NPPVで必要十分な換気が実現できれば完全に器械換気になりうる。つまり,換気が十分で楽だからこそ“器械に委ね乗ってしまう”のであり,換気が足りないために自発呼吸が残るのである。自発呼吸がなくなる設定こそが,呼吸仕事量の軽減につながる設定である。夜間のNPPV実施により,日中の自発呼吸による呼吸筋疲労を十分解消することが可能となる。このような設定を追求すべきである。
使用する呼吸回路には,呼気ポートのある開放回路と呼気弁の付いた閉鎖回路がある(図1)。これまでのTPPVでは呼気弁の付いた閉鎖回路を用いたが,最新の在宅用人工呼吸器では開放回路も用いられる。従圧式で換気量を保証するモードや従量式でリーク補正機能が付いたモードは,開放回路で設定する。
24時間TPPV使用の場合は,内部バッテリーと外部バッテリーの駆動時間・充電時間を確認しておく。東日本大震災後は,十分な外部バッテリーの供給を含めたレンタル契約になっている。
人工呼吸器によって,同じモードでも様々な名称(略称)で呼ばれ,これが混乱を招き,苦手,嫌いと言われる所以となる。換気モードを理解すれば,人工呼吸器の作動状況が読めるようになり,苦手意識は克服される。以下に解説する換気モードの基本を押さえれば,それほど難しいものではない。
①自発呼吸だけをトリガーし換気補助するモード。
・従圧式:S(Spontaneous mode)
②最低のバックアップ呼吸回数で換気し,それ以上に自発呼吸が起こった時にはトリガーし,設定した固定圧あるいは固定換気量で換気補助するモード。
・従圧式:PSV(Pressure Support Ventilation),S/T(Spontaneous/Timed mode),P A/C(Pressure Assist/Control),P SIMV(Pressure Synchronized Intermittent Mandatory Ventilation)など。
・従量式:VCV assist(Volume Control Ventilation assist),V A/C(Volume Assist/Control),V SIMV(Volume Synchronized Intermittent Mandatory Ventilation)
③自発呼吸はトリガーせず,設定した呼吸回数だけ換気するモード。
・従圧式:PCV(Pressure Control Ventilation),T(Timed)
・従量式:VCV(Volume Control Ventilation)。
④②+最低換気量を保証するモード。
・従圧式:PSV+target volume,S/T+AVAPS(Average Volume–Assured Pressure Support),iVAPS(intelligent Volume–Assured Pressure Support)などは最近の技術革新であり,最適なモードと思われる(コラム参照)。
⑤④+気道閉塞を感知し,呼気気道陽圧(Expiratory Positive Airway Pressure;EPAP)が自動で変わるモード。
・従圧式:AVAPS–AE(auto EPAP)。今後有用性を検討する。
NPPVにはマスク,TPPVには気管カニューレを使用する。
①マスク
著しい進歩と改良を遂げているマスクには,鼻マスク,鼻プラグ,フルフェイス(口・鼻)マスク,トータルフルフェイスマスク(お面のようなマスク),ヘルメットマスク,マウスピースなどがある(図2)が,NipシリーズはResMed社のマスクしか使用できないので要注意である。なぜなら,呼気ポートを含む想定リーク量が事前に器機に組み込まれ,アルゴリズムに関与するからである。ViVOシリーズはリーク補正に優れ,あらゆるマスクに対応できるため,様々な形式のマスクがチェスト社から提供可能であり,患者に最適なマスクを選択できる。
マスク選択のポイントは,死腔が大きいと換気に不利である点を念頭に置くことである。鼻呼吸が最も生理的であるが,開口により空気が漏れて有効な換気ができない場合はフルフェイスマスクを使用する。しかし,いざという時に手でマスクが取れないような神経筋疾患には,フルフェイスマスクでは口から流出する唾液を誤嚥し窒息する可能性もあるため,ネーザルマスクを使用する。
長時間NPPVを使用する患者では,マスクにより皮膚トラブルが生じやすい。そのような例では複数のマスクを使い分けることにより,マスクごとに皮膚との接触面が変わり皮膚トラブルを避けることができる。そのほかの皮膚トラブル対策としては,マスク接触面に皮膚保護剤を貼付する方法がある。シリコンジェルシート(シカケアⓇ)やフィルムドレッシングは効果的であるが,高額である。
②気管カニューレ
第31回(No.4668,p48)参照。
Column
最新モードの機種による違い
以下は,在宅用人工呼吸器の最新モードである。target volume(ViVO40®,50®),AVAPS(Trilogy®,BiPAP Synchrony2®,BiPAP AVAPS®,BiPAP A40®),target VT(Puritan BennettTM560®)は,最低保証の1回換気量を設定し,吸気圧(Inspiratory Positive Airway Pressure;IPAP)が上下する。イメージしやすく設定しやすい。しかし,iVAPS(NipV®)は目標肺胞分時換気量を設定し,肺胞分時換気量=呼吸回数×肺胞1回換気量であるゆえ,2つのパラメーターが自動で動くため,イメージしにくく設定しにくい印象である。TPPVにも使用可能なものはViVO40,50,Trilogy,Puritan Bennett560である。
①病名・病態:何が原因で換気補助が必要になったか,併存症の有無を確認する。退院後は画像検査などは困難であるため,在宅ケアに参考となる検査(呼吸不全のため心循環機能の把握は重要)はあらかじめ行ってもらう。栄養状態を把握しておく。
②人工呼吸器の1日使用時間:夜間のみか,24時間か。神経筋疾患の場合は自発呼吸があるか否かを確認する。
③バッテリー:24時間使用の場合は,内部バッテリーと外部バッテリーの駆動時間・充電時間を確認する。東日本大震災後は,十分な外部バッテリーの供給を含めたレンタル契約になっている。
④人工呼吸器:種類,設定モード,実際の設定を確認する。
⑤在宅ケア体制の整備:24時間訪問看護体制および在宅呼吸リハビリテーションは必須であり,退院前に理学療法士や作業療法士の依頼,ケアマネジャーによる居宅介護サービス(ヘルパー,訪問入浴サービス,福祉用具など)の整備がなされているかを確認する。
⑥SpO2モニター:自治体によっては購入費用の助成がある。
⑦緊急対応:夜間も通じる電話番号,人工呼吸器メーカーや酸素会社の緊急体制,緊急訪問に要する時間を確認する。
<以下は特にTPPVの場合>
⑧診療体制:在宅医がどこまで担うか,定期的な気管カニューレ交換を担えるか否か確認する。特殊な気管カニューレ(スパイラル鋼線入りなど)は高額であり,かつ在宅医療での算定は難しい。病院で交換する場合には在宅人工呼吸指導管理料は病院が算定することになる。算定する側が必要物品(吸引チューブや人工鼻など)を支給する。胃瘻の交換時期と病院側の受け入れ体制を確認しておく。
⑨気管カニューレ:種類,太さ,交換頻度(2回/月あるいは1回/月),吸引の頻度,喀痰の量,気管カニューレ交換時の注意点(出血しやすい,交換が難しいなど,平素交換している医師に聞いておく)を確認する。スパイラル鋼線入り気管カニューレの場合には要注意。
⑩コミュニケーションエイドの使用:どのような方法でコミュニケーションを取っているかを確認しておく。
⑪人工呼吸回路:交換頻度と誰が行うかを確認しておく。
⑫人工鼻の交換頻度:人工呼吸器メーカーが人工鼻を供給する場合は,器機レンタル料に含めている。
⑬家族のケア体制:家族間,親族間の協力体制を確認する。
⑭緊急時の入院対応:緊急時の入院の受け入れ保証を約束してもらう。
⑮レスパイト入院の要請:在宅で引き受ける代わりに病院側に保証してもらうとよい。自治体ごとにレスパイト保証制度もあるので,上手に利用する(例えば,神奈川県川崎市では安心見守り制度)。
⑯呼吸ケアのための必要物品(施設により差違あり):病院から提供される物品は吸引チューブ,酒精綿,気管カニューレの下に敷くガーゼ,加湿器用精製水など。病院における清潔操作は院内感染予防の基準により行われるものであり,在宅では院内レベルと同等の清潔操作は必要ないことをあらかじめ患者・家族に説明し,在宅でのケアには必要と思われないが患者・家族が必要と判断したケア用品は自費購入とするか,日用品での代替を提案する。
⑰アンビューバッグ:自治体ごとに購入費用の助成がある。
⑱吸引器:自治体ごとに購入費用の助成があり,停電時のために充電式内部バッテリーがあるものを選ぶ。手動式のものを準備してもよい。
⑲災害時の緊急対応:詳細は以下参照。
厚生労働省精神・神経研究委託費筋ジストロフィーの療養と自立支援のシステム構築に関する研究班編:神経筋難病災害時支 援ガイドライン「在宅人工呼吸器装着患者の緊急避難体制」
[http://www.jmda.or.jp/ 4/4-pdf/saigai-guide.pdf]
大好きな自宅で過ごしたいという患者の願いをかなえるために,在宅で人工呼吸器装着患者を引き受けようとするこの一歩は,大変に尊いことである。すでに地域においてこのような患者を受け持つ訪問看護師も,その第一歩を支えてくれること間違いなし。しかし,地域のスタッフも不慣れであるならば,一緒に勉強しながらチームを作り,よりよい在宅療養を求めて,ともに成長していくことも,これまたやり甲斐のある仕事である。
本稿により,これから在宅医療に取り組もうと考えている先生方に,「人工呼吸器をつけた患者を引き受けてみよう!」と思っていただければ幸いである。
参考文献
▶岡元和文 編:エキスパートの呼吸管理. 中外医学社, 2008.
▶石川悠加 編:JJNスペシャル83 NPPVのすべて. 医学書院, 2008.
▶武知由佳子:スーパー総合医. 中山書店, 印刷中.