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耳鼻咽喉科・頭頸部外科学[特集:臨床医学の展望2014]

No.4684 (2014年02月01日発行) P.50

市村恵一 (自治医科大学副学長)

登録日: 2014-02-01

最終更新日: 2017-09-25

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超高齢社会に向かう我が国では高齢者のQOLを高める上で 耳鼻咽喉科・頭頸部外科医の役割は大きい

QOLを高めることの重要性が強調されてから久しいが,視覚以外の感覚のすべてを扱い,コミュニケーション手段として重要な音声言語を扱う耳鼻咽喉科・頭頸部外科医は高齢者のQOL維持の第一線に立つ存在である。生きがいを持った高齢者がさらにQOLを高めるための相談に乗り,疾患の視点のみならず生活の視点から情報を聞き出し,適切なアドバイスを与えることを通して積極的に地域社会を牽引していくことができる。

耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域の加齢性症候には難聴,耳鳴,ふらつき,嗅覚低下,味覚低下,鼻漏,後鼻漏,鼻閉,口腔咽頭乾燥,いびき,発声障害,誤嚥といったものが挙げられる。これらは確実に高齢者のQOLを下げる因子となる。老人性難聴を例に取ると,全身に起こる加齢変化とほぼ同期して起こり,発症・進行が緩徐で,純音聴力レベルに比較して語音明瞭度が低下し,子音の異聴や騒音下での音声の聴取が劣化することに特徴がある。進行してきて補聴器が必要になる場合が多いが,装用させるのみでなく,対応においても,自分の口元を見せて話す,ゆっくりはっきり文節で区切りゆったりと話す,必要以上に大声で話さない,近づいて話す,周囲の騒音を抑える,といった注意を心がけたい。大声を出す時は怒ったような顔になるし,音も歪みやすい。

耳鼻咽喉科領域における漢方療法でエビデンスの質の高い報告は小青竜湯がアレルギー性鼻炎に有用であるというもののみであったが,実臨床では役立つことが多い。ここにきて,漢方薬治療の普及に伴い,十全大補湯の反復性中耳炎児に対する予防効果や,嗅覚障害に対する当帰芍薬散の効果,老人性音声障害に対する補中益気湯の効果など,通説とされてきた作用とは異なるが,良好な結果を得たとする報告が相次いでいる。

十全大補湯については平成21(2009)年度,厚生労働科学研究として金沢大学の吉崎智一教授班が「小児反復性中耳炎に対する十全大補湯の有用性に関する多施設共同ランダム化比較試験」を行い,急性中耳炎難治症例や反復性中耳炎に対するその有用性を証明した。

また,当帰芍薬散についてはその嗅球の神経成長因子増加作用が報告されており,嗅覚障害に対して,従来の定番治療であったリンデロン点鼻療法と同等か,それ以上の効果が報告されている。例えば感冒後嗅覚障害では治癒までに1年程度かかるが,その治癒率は75%ときわめて高くなっている。

さらに補中益気湯の有する骨格筋や平滑筋の筋緊張や運動性を高める作用に注目し,これを加齢性発声障害に応用したところ,症状のみならず,発声持続時間も延長するという良好な成果が得られている。良好なコミュニケーションの維持と漢方薬の適切な使用で高齢者のQOLを高めよう。

初期臨床研修制度の導入以後,それまで年間300人程度が耳鼻咽喉科医になっていたものが220人程度に減少したままである。一方で,専門医制の改革の一環として総合診療に専門医を作ることが決定された。そのカバーするところは,頭頸部領域に絞れば現在の耳鼻咽喉科開業医がカバーしているところと重なる。

米国では志望のベスト3に入る耳鼻咽喉科・頭頸部外科医の数は我が国の約80%にすぎず,その診療実態は手術主体で我が国の大学病院の診療内容に近く,家庭医的内容は扱わない。我が国の耳鼻咽喉科・頭頸部外科も総合診療医との差別化を図って,手術や高度な技術を主体とする診療に特化する方向に進むことになろう。

最も注目されるTOPICとその臨床的意義
TOPIC 1/急性上気道炎症のガイドラインの改訂相次ぐ
2013年は急性中耳炎診療ガイドラインの改訂が内外で行われた。我が国では日本耳科学会など3学会共同によるガイドラインの第3版に当たる『小児急性中耳炎診療ガイドライン2013年版』が出版され,海外では米国小児科学会の2004年版以来の最初の改訂となる2013年版が発表された。急性鼻副鼻腔炎診療ガイドラインも米国小児科学会から2013年版が提出された。

この1年間の主なTOPICS
1 急性上気道炎症のガイドラインの改訂相次ぐ
2 人工聴覚器の進歩とその導入
3 好酸球性副鼻腔炎の診断基準の提案
4 スギ花粉症への舌下免疫療法の導入
5 鼻閉と睡眠時無呼吸の関連性の解明

TOPIC 1▶‌急性上気道炎症のガイドラインの改訂相次ぐ

我が国で『小児急性中耳炎診療ガイドライン』が最初に公表されたのは2006年であるが,ここでは,細菌の薬剤耐性化を考慮し適切な抗菌薬治療を行うこと,重症度に従った治療を進めることなどが推奨されていた。2009年版では重症度分類の修正が行われたが,今回の2013年版1)では重症度分類に再度修正を加え,治療アルゴリズムも改訂されている。

治療アルゴリズムにおける大きな改訂部分は,抗菌薬投与を5日間とするが,3~4日目に病態の推移を観察することが推奨されたことである。したがって,抗菌薬治療の第1段階,第2段階は3日間投与とし,改善があれば同一抗菌薬をさらに2日間投与することになった。また,肺炎球菌迅速診断キットの市販に伴い,軽症の第3段階,中等症の第2段階以降,重症の第1段階以降では,迅速診断結果も参考の上,抗菌薬の選択や変更を考慮することとなった。

新たに市販された経口カルバペネム系抗菌薬のテビペネムピボキシル(TBPM-PI),小児に適応を有するニューキノロン系抗菌薬のトスフロキサシントシル酸塩水和物(TFLX)が推奨治療薬に加えられた。前者は肺炎球菌に,後者はインフルエンザ菌に良好な感受性を持つとされ,従来の抗菌薬治療で効果がない場合の選択肢となった。

米国小児科学会のガイドライン2013年版2)では診断基準として,ティンパノメトリー検査か空気圧耳鏡検査によって中等度から重度の鼓膜の腫脹が確認されるか,もしくは,急性外耳炎が原因でない耳漏が新たに発現していることを不可欠なものとした。従来の基準では滲出性中耳炎も取り込んでしまう危険性を排除する目的と考えられ,鼓膜所見の重視の方針は耳鼻咽喉科側と歩調を合わせる傾向と言える。治療面では,大半の小児では抗菌薬を投与しなくても感染が改善する場合が多いが,生後6カ月以上の深刻な症状の小児,すなわち,中等度から重度の耳痛,39℃以上の体温で48時間以上の軽度耳痛,もしくは鼓膜穿孔を確認した場合は抗菌薬投与が推奨されている。

米国小児科学会の急性鼻副鼻腔炎診療ガイドラインでは急性上気道炎(感冒)の児において,以下のいずれかを認めた時に急性鼻副鼻腔炎の診断がなされるとしている3)
・持続:鼻汁または昼間咳嗽が,改善せず10日以上持続
・悪化:症状がいったん改善を示した後,鼻汁・昼間咳嗽あるいは発熱が新規出現・再燃
・重症:3日以上持続する膿状鼻汁と39℃以上の発熱の持続

このうち,「重症」群と「悪化」群には,抗菌薬を処方すべきであり,「持続」群では,抗菌薬を処方か,3日間の経過観察を行うかを選択することとした。我が国の日本鼻科学会による2010年版ではこのような分類はなく,重症度分類にスコアリングシステムを導入し,軽症・中等症・重症を分けた上で,軽症例では経過観察を,中等症以上は抗菌薬治療を推奨している。

◉文 献

1) 日本耳科学会, 他 編:小児急性中耳炎診療ガイドライン2013年版, 金原出版, 2013.

2) Lieberthal AS, et al:Pediatrics. 2013; 131(3):e964-99.

3) Wald ER, et al:Pediatrics. 2013;132(1): e262-80.

TOPIC 2▶人工聴覚器の進歩とその導入

難聴者に音を増幅させて聞こえさせる補聴器は高度の感音難聴では活用できない。この場合,音を電気信号に変換し,蝸牛内に挿入されたインプラントデバイスの電極アレイを通じて残存する聴神経を電気刺激することで言語聴取が可能となる。低音部の聴力が残存している例では従来の人工内耳の対象とはならないが,補聴器を使用しても高周波音が聴取できず, 言葉の聞き取り,特に雑音や騒音の多い場所での聞き取りが困難となる。

このような例に対応するため, ハイブリッド型人工内耳(hybrid CI),別名combined electro-acoustic stimulation(EAS)が開発された。「残存聴力活用型人工内耳」とも呼ばれる。 高周波音は従来の人工内耳と同様に蝸牛内に挿入された電極から電気信号として聴神経に伝え,低周波音は外耳道に挿入する補聴器で音を増幅して鼓膜に伝える。欧米では2005年以後に治験が開始されており,我が国でも信州大学が「残存聴力活用型人工内耳挿入術」を高度医療として申請し,2010年8月に承認された。初期には電極による蝸牛傷害で,残存聴力保存が困難だったが,その後,細く柔軟な電極や正円窓経由での挿入法が考案され,電極をより深く挿入しても聴力を温存できるようになった。

音を耳小骨,内耳窓,あるいは側頭骨を経由させて蝸牛に作用させるものには,大きく分けて植込型骨導補聴器(bone anchored hearing aid;BAHA)と人工中耳がある。

BAHAあるいは「骨固定型補聴器」は耳介後部の骨に植え込む経皮接合子と,それに接続するサウンドプロセッサからなり,音情報を骨から直接蝸牛に伝える。手術は簡便で,効率にも優れるので,欧米では先天性外耳道奇形を伴う症例や中耳疾患を持つ混合性難聴例,片側性高度難聴例に対してポピュラーな治療法として定着している。直接耳内に操作が及ばない点,両側蝸牛を刺激する点は後述する人工中耳とは異なった範疇となる。

我が国では多施設共同治験が行われ,①両側外耳道閉鎖症および両側外・中耳疾患例で既存の手術による治療および既存の骨導補聴器を使用しても改善が見られない,②一側の平均骨導聴力レベルが45dB未満,③18歳以上(ただし両側外耳道閉鎖症では15歳以上でも可)の患者を対象に認可され,2013年1月には保険収載となった。

人工中耳は「音を振動エネルギーに変換して内耳に伝える」という中耳の機能を代行する機器で,最初に開発したのは我が国であったものの,その後研究が中止され,その間外国でいくつかの種類が開発された。現在我が国で治験が進行中なのはvibrant soundbridge (VSB)である。体外に装用するプロセッサと体内に植え込むインプラントとfloating mass transducer(FMT)と呼ばれる振動子から構成される。振動子は耳小骨に置くタイプが多いが,我が国では正円窓膜上に留置して蝸牛を直接刺激する方法が採用されている。2013年度中に治験が終了し,評価解析中である。

こうした人工聴覚器の進歩に呼応し,2013年の日本耳科学会会長の東野哲也教授は会長講演1)で,EASの適応拡大が進めば,人工内耳か伝音連鎖再建かという二者択一の議論から,骨導聴力温存電極挿入と伝音再建の両立を目指す議論へとシフトするであろうし,BAHAの普及への期待とともに,治療法選択の臨床能力を高める必要があると述べ,人工聴覚器医療の推進のために外科的聴覚管理体制の整備が急務と訴えた。

◉文 献

1) 東野哲也:Otol Jpn. 2013;23(4):299.

TOPIC 3▶好酸球性副鼻腔炎の診断基準の提案

慢性副鼻腔炎は1990年頃から導入されたマクロライド療法と,ほぼ同時期から普及した内視鏡下副鼻腔手術により,治癒率の著しい向上が得られた。しかし,マクロライド療法で効果が上がらず,なおかつ手術をしても改善しなかったり,再発を繰り返したりする慢性副鼻腔炎の症例が報告されるようになった。こうした症例の鼻粘膜に好酸球が多く浸潤していることが明らかになり,従来の副鼻腔炎と異なったタイプと認識されるようになったことから,「好酸球性副鼻腔炎」と命名された。

好酸球性副鼻腔炎の特徴は多発性鼻茸と粘稠性分泌物(ニカワ状)の貯留,それに早期から見られる嗅覚障害である。気管支喘息を伴うことが多く,血中好酸球数増多や鼻茸組織内の好酸球増多を伴う。炎症が篩骨洞から始まることが多いため,上顎洞と篩骨洞の陰影を比較すると篩骨洞陰影が高度である。臨床上最も問題になるのは「術後の易再発性」であり,その再発した鼻茸は経口ステロイド治療によく反応して縮小・消失する1)

本疾患の実情を調査し,診断基準を定めるため厚生労働省難治性疾患研究班が福井大の藤枝重治教授を班長として2010年に立ち上がった。好酸球性副鼻腔炎を特徴づける因子についての多変量解析の結果,有意であった項目(両側病変,鼻茸の存在,嗅裂閉鎖,薬剤アレルギーの存在,篩骨洞陰影の優位,血中好酸球の増多)を基にスコアづけし,好酸球性副鼻腔炎の診断基準を作成したが,真の難治性好酸球性副鼻腔炎を診断するのに適した基準とは言えなかった。

そこで,エンドポイントを再発性と難治性という両面に設定し,そのハザード比から多変量解析を行ったところ,再発性からは気管支喘息の合併,篩骨洞優位の画像,血中好酸球増多,NSAIDsやアスピリンへの過敏性が,難治性からは篩骨洞優位の画像と血中好酸球増多が因子となった。そこで新たなスコアを以下のように作成した。

両側罹患3,鼻茸2,篩骨洞陰影優位2,血中好酸球2%超5%以下4,5%超10%以下8,10%超10。

スコア数11以上を陽性とした診断基準が新たに提案された。なお,鼻茸中の好酸球数は70/HPFをカットオフ値とすると再発のリスクファクターとはなるが,多変量解析においては,末梢血好酸球数やCT陰影ほど有意な因子ではなく,術後に判明する項目なので,診断基準には含めなかった。

これ以外にいくつか臨床診断基準案が提出されている。そのうち,川村2)は好酸球性副鼻腔炎の診断には問診,視診で成人発症,両側性鼻茸,嗅覚障害の要素を満たし,血中好酸球数462以上,単純X線像で篩骨洞優位の条件を満たせば,CTや組織検査,術後経過によらずとも一般の開業医でも治療前に高い確率で診断が可能であると述べている。

◉文 献

1) 春名眞一,他:耳鼻展望. 2001;44(3):195-201.

2) 川村繁樹:日鼻科会誌. 2012;51(1):51-2.

TOPIC 4▶スギ花粉症への舌下免疫療法の導入

アレルゲン免疫療法は単に症状の改善を図り,薬剤の使用量を減少させるだけでなく,効果が持続して自然経過の改善ができること,喘息などのほかのアレルギー疾患の発症や新たな抗原の感作を予防する可能性があることが明らかになっており,国際的には確立された治療法となっている。しかし,従来行われてきた皮下投与法は頻回な通院が必要で,頻度は低いながらアナフィラキシーなど重篤な副作用が報告されていることもあって,施行できる施設は少なかった。また,使用可能な抗原も限定されていた。こうした状況の中で,日本アレルギー学会に本療法に関する専門部会が設置され,2013年に「アレルゲン免疫療法の基本的考え方」が公表され,またスギ花粉症に対する舌下免疫療法が今春にも導入されることとなった。

舌下免疫療法は一定の効果が確認されている上,投与時の痛みがなく,重篤な副作用の報告は少なく,死亡例の報告もないため,今後国内に広く普及する可能性を秘めている。後述のように厚生労働省が本療法を普及させる上で治療に当たる医師に教育講習会を義務づけたところ,きわめて多くの医師が関心を示し,参加したことからも本療法への期待の大きさが見て取れる。しかし,問題がないわけではない。現在,十分な効果が見られるまで2年以上の治療期間が必要で,花粉症でも飛散期のみならず非飛散期も含めての連続投与が必要である。投与濃度は皮下投与より高いため,治療費も安価ではない。副作用も重篤なものはきわめて少ないとはいえ,理論上は皆無ではない1)

スギ花粉症患者531例によって行われた第Ⅲ相臨床試験(2010年9月~12年8月)では,2シーズン目の症状ピーク期1週間とその前後1週間の計3週間の総合鼻症状スコア(total nasal symptom score;TNSS)を検討したが,プラセボ群との間に有意差が認められ,有用性が確認された。スギ花粉エキスは2012年12月に鳥居薬品から国内製造販売承認申請が行われ,シダトレンとして今春にも保険収載される予定である。アレルギー性鼻炎と舌下免疫療法の正しい知識を持つため,教育講習会の受講と,DVD研修が医師に義務づけられることになった。現在スギ花粉エキスに引き続き,ダニの錠剤による舌下免疫療法の治験が進行中である。これに伴いアレルギー性鼻炎治療も対症療法主体から免疫療法に重点が移る可能性もある。

◉文 献

1) 日本鼻科学会, 編:日鼻科会誌. 2013;52(別冊): 435-88.

TOPIC 5▶鼻閉と睡眠時無呼吸の関連性の解明

米国内科学会は2013年に閉塞性睡眠時無呼吸の診療ガイドラインを発表した1)。今回のガイドラインでは各治療法について1966~2010年の文献を対象とした系統的レビューで評価し,以下の3つの勧告を作成した。
①過体重あるいは肥満患者に減量を勧める
②初期治療としてCPAP(continuous positive airway pressure)を勧める
③個人の意向あるいはCPAPに関連した有害事象時の代替療法として,下顎前方移動装置を勧める

今回のレビューにおいて,外科治療はリスクなどが伴い,治療効果を示すエビデンスが不十分であることから,初期治療とすべきではないと結論づけられている。

しかし,一方で,鼻呼吸障害により睡眠呼吸障害が生じることが確実なことから,睡眠時無呼吸症候群患者に対する鼻への治療をどうするかについて耳鼻咽喉科・頭頸部外科の側から地道な研究が進められている2)

鼻呼吸障害により睡眠呼吸障害が生じる機序には,空気力学的要素,代償性口呼吸による上気道抵抗の増大,鼻肺反射による咽頭開大筋緊張低下や換気量の低下,NO供給の減少に伴う影響などが考えられている。

肥満などにより咽頭が閉塞している場合や咽頭筋のトーヌスが減少している時は鼻閉により咽頭内陰圧が上昇し,容易に上気道閉塞が惹起される。口峡の狭さと睡眠呼吸障害の重症度の相関は鼻閉のない群では認められないが,鼻閉群では認められる。鼻呼吸障害の悪化で代償的に口呼吸が生じる。口呼吸により下顎と舌骨が後下方に移動し,舌根が沈下し,咽頭腔は狭小化し睡眠時無呼吸が生じる。また,口呼吸移行に伴い自発性覚醒反応が生じるともいう。鼻腔気流の減少に伴い気流感知受容器への入力信号が減少し,頤舌筋などの咽頭開大筋が弛緩し,咽頭腔が狭窄する。さらに,鼻肺反射により気流感知受容器への入力信号減少は呼吸中枢抑制に働く。鼻副鼻腔で大量に産生されるNOは換気血流比や血液酸素化を制御する。鼻閉により鼻からのNO供給が減少すると肺でのガス交換機能が低下する。さらに中枢に作用し咽頭筋のトーヌス維持を妨げることになる。

睡眠時無呼吸症候群患者の安静時鼻腔抵抗を測定すると正常者より有意に高い。また,鼻腔抵抗が高いほど無呼吸指数が高く,慢性的鼻呼吸障害の無呼吸への関与が示唆される。睡眠時無呼吸症候群における鼻手術の意義としては鼻閉を除去することでnCPAP(nasal CPAP)を使いやすくすることと,手術そのもので無呼吸を制御することの2つがある。中田3)は鼻疾患患者での手術適応を軟口蓋・口蓋垂の位置が高く,舌根部の空間が広い場合で,両側鼻腔通気度が0.38Pa/cm3/秒以上で,鼻閉を訴えnCPAPを使いにくいものと提案した。

◉文 献

1) Qaseem A, et al:Ann Intern Med. Sep 24, 2013[Epub ahead of print]

2) 宮崎総一郎,他:日医師会誌. 2013;141(10): 2207-9.

3) 中田誠一:日気管食道会報. 2012;63(2):136-9.

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