メルケル細胞癌は,高齢者の露光部に好発する皮膚の神経内分泌系悪性腫瘍である。その悪性度は高く,原発性皮膚癌の中で最も予後不良なもののひとつとされ,その致死率は33%にも及ぶ1)。稀な腫瘍ではあるものの,その年間発生率は急速に増加している。
2008年にMoore/Changらのグループによりメルケル細胞癌の腫瘍標本からメルケル細胞ポリオーマウイルス(merkel cell polyomavirus:MCPyV)が発見され,メルケル細胞癌発症への深い関与が知られることとなった。このウイルスは,ウイルス粒子の構造蛋白であるVP1, VP2, VP3と早期腫瘍蛋白であるsmall T抗原およびlarge T抗原の5つのウイルス遺伝子をコードしている2)。現在では約80%以
上のメルケル細胞癌のゲノム上にウイルスDNAが組み込まれているとされる。
このウイルスの感染そのものは決して稀なものではなく,一般人口の半数程度に認められ,メルケル細胞癌の発生には,それに加えてさらに2つの稀な遺伝子変異(integration mutationおよびtruncating mutation)が必要とされる。MCPyV由来のがん蛋白は,ウイルス陽性のメルケル細胞癌において,腫瘍細胞の生存維持に必要であり,さらに免疫原性を有し,生体内で様々な免疫応答を引き起こす。
【文献】
1) Agelli M, et al:J Am Acad Dermatol. 2003;49 (5):832-41.
2) Feng H, et al:Science. 2008;319(5866):1096-100.
【解説】
永瀬浩太郎 佐賀大学皮膚科講師