No.4881 (2017年11月11日発行) P.55
八幡徹太郎 (金沢大学附属病院リハビリテーション部臨床教授)
土屋弘行 (金沢大学整形外科教授)
登録日: 2017-11-11
最終更新日: 2017-11-07
四肢痙縮は,片麻痺(脳卒中後等)や対麻痺(脊髄損傷後等)でしばしば問題となる症状である。同症状による筋の伸張性・運動性の損失は,身体異常所見として現れるだけでなく,患者・家族の生活にも様々な弊害をもたらす。
片麻痺や対麻痺の四肢痙縮は通常,限局した部位に生じる。内服薬(鎮痙薬)の場合,同患者の生活改善を達するような投与量は全身投与であることから,基本的に過剰量となる。よって,以前から(外科治療以外の)限局的緩和法の登場が望まれていた。ボツリヌス療法はその究極であり,筋選択的抑制を実現した保存療法である。副作用がきわめて少なく,投与手技が簡便なことも利点である。わが国での四肢痙縮に対する使用承認は2009年以降とまだ新しく,今後の臨床現場への浸透が望まれる。しかし,薬価が高いことが欠点であり,これを理由に治療を受けられないケースが実在する。
筆者らの施設では以前,推奨できる限局的緩和法にはフェノール法(末梢神経やモーターポイントに投与)しかなかったが,ボツリヌス療法の登場で治療戦略は大きく変わった。現在,ボツリヌス療法を軸としつつ,しかし選択肢を本法単独とはせず,フェノール法やそのほかのブロック法ほか,薬物療法,物理的治療を適宜,補助的ないし補完的に行う方針としている。「外来で行える限局的緩和治療」のコンセプトのもと,現在は治療の幅の拡大を得て,以前は治療できなかった痙縮でも治療が行えることが増えた。
【解説】
八幡徹太郎*1,土屋弘行*2 *1金沢大学附属病院リハビリテーション部臨床教授 *2金沢大学整形外科教授