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早期対応と救命のカギは「実地医家の視点」にあり【CBRNEテロと医療対応】

No.4904 (2018年04月21日発行) P.21

登録日: 2018-04-13

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2020年東京オリンピック・パラリンピックで発生が警戒されるCBRNE(用語解説)によるテロ攻撃。テロ災害という脅威に一般臨床医はどう備え、対処すべきか。日本医師会が4月4日に開催したテロ災害研修会で、国内外の専門家はテロへの医療対応における実地医家の視点と感覚の重要性を指摘した。

山口芳裕氏(杏林大)は、昨今のテロの傾向を俯瞰し、「単独犯による小規模テロの増加は注目に値する」と強調。日本では、テロ対処を軍主導で行う諸外国と異なり「民間が負う覚悟が必要」とし、医師には戦傷医療に基づく“教科書から離れた”対応も求められるとした。

■全ての医師は止血手技に習熟を

山口氏は、2016年に世界で関知されたテロの54%が爆弾によるものだったことから、「東京五輪で最も警戒すべきは爆発物によるテロ」との見方を示した。しかし、爆発物による複合的な多発傷害(爆傷)の診療経験を持つ日本の医師はきわめて稀だ。

爆傷患者が一般医療機関に来院したら、どう対処すべきか。これについて爆傷研究に携わる齋藤大蔵氏(防衛医大)は、①四肢から大量出血があればターニケット(救命止血帯)を巻く、②バイタルサインと意識レベルに問題があれば総合病院へ搬送する、③受傷機転を確かめて問診し、自らの専門領域であれば診察、専門外であれば紹介状を書いて受診を指示する―と整理。一見元気そうでも、耳鼻科、眼科、神経内科の各領域の“見えない受傷”に注意するよう呼び掛けた上で、「全ての医師は止血手技に習熟すべきだ」と提言した。

■「通常の感染症」の知識が重要

医学と軍事の双方の立場からテロ対策に関わるロニー・カッツ氏(米スタンフォード大)は、バイオテロにおける医師の役割の1つに「臨床的疑念や推定診断を、検査結果を待たずに公的機関に報告すること」を挙げた。加來浩器氏(防衛医大)によると、病原体の空中散布、水源・飲食物の汚染などの「秘匿的攻撃」の場合、まず医療機関に“通常とは異なる”感染症患者が集積する。このため、発生時期や地理的分布、症状等の不自然さへの気付きがテロ対応の端緒になる。加來氏は「日常診療で『通常の感染症』の正しい知識を備えておくことが重要だ」と強調した。

■化学テロ対処ツールは日常臨床でも有用

箱崎幸也氏(元気会横浜病院)は、地下鉄サリン事件のような化学テロにおける診断・対処ツールとして、米国立衛生研究所(NIH)がウェブ上で無償提供している「CHEMM」(Chemical Hazards Emergency Medical Management)を紹介。CHEMMは、症状・徴候を入力することで、シアン化物、神経剤、刺激性ガスなど7種類の化学剤を同定でき、曝露患者のトリアージや治療の基準も検索できる。箱崎氏は、救急医や化学工場の産業医にとっては、こうしたツールが日常臨床でも有用であるとし、化学テロへの医療対応には「日々診療を重ねる実地医家の視点が非常に大切」と語った。

■診療所も無関係ではいられない

放射性物質に関しては、核汚染を目的とした小型爆弾を用いたテロへの懸念が高まっている。核テロ対応に関して、明石真言氏(量子科学技術研究開発機構)は過去の臨界事故などの経験を基に、①被曝・汚染だけで緊急治療が必要になることはない、②外部被曝患者は通常の搬送・診療が可能、③汚染患者から大量被曝を受けることはない―などの留意点を提示。「生命に関わる外傷や熱傷の治療を優先すべき」とまとめた。

井上忠雄氏(NBCR対策推進機構)は「テロが大規模になれば、地域を挙げての対応が求められる。個人病院も診療所も無関係ではいられない」と述べ、医療界全体の意識向上を訴え掛けた。

【CBRNE(シーバーン)】:テロ攻撃や事故災害などで深刻な被害をもたらしうる化学物質(chemical)、生物(biological)、放射性物質(radiological)、核(nuclear)、爆発物(explosive)の頭文字をとった総称。

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