乗客を乗せた新幹線に爆弾が仕掛けられる。犯人と捜査員の駆け引き、極限状態の人間模様を描いたパニック映画。東映ビデオよりDVDが発売
本執筆依頼をお引受して、さて何を書くかしばし迷った。元来天邪鬼であるので過去最も多い題材は避けたい。電光石火の如く編集部にメールすると、果して“一冊”が多く次いで“一曲”、“一本”つまり映画が最も少ない由である。
書くべきは映画と決まったものの、著者は浜村淳氏の映画解説で十分満足しており映画は殆ど見ない。昔、自動車教習所でみた交通安全映画にはいたく感動したが、編集部は確実にボツにするであろう。ならば思い浮かぶのが“新幹線大爆破”である。本来、本稿では感動した映画を選択すべきであろうが、著者は鉄道ファンであり別の意味での“この一本”である。
1975年に制作されたこの本作品は、東京発博多行“ひかり109号”が時速80キロを下回ると爆破するというパニック映画である。当時まだ“のぞみ”は運行していない。鉄道の安全は“まず停止すること”であり、その盲点を突いたアイデアが素晴らしい。しかし、当時の国鉄は新幹線を爆破するなど縁起でもないとタイトルを“新幹線危機一髪”に変更するように求めた。これではハッピーエンドが見え見えであり、さらに海賊なんぞが出てくる玩具と間違われては元も子もない。結果、本作品は国鉄非協力で作成され、国内よりむしろ海外で高い評価を得た。その後の模倣作も少なくない。
本作品では、新幹線の安全運行システムの基本を学ぶことができ、ストーリーとは別に著者にはこちらが興味深い。尤も、映画の中で登場する新幹線逆走などほぼ不可能であるのはご愛敬である。結局、“ひかり109号”は無事山口県内で停車するのだが、著者ならば遥かにスマートな解決が可能であった。その詳細を書こう…と思ったところなんとスペースが尽きた。“この一冊”にすべきであった。後の祭りである。