近年の抗腫瘍治療の発展により,がん患者の生命予後は飛躍的に向上しつつある一方,終末期がん患者の在宅緩和ケアの環境整備が喫緊の課題である。がんの在宅緩和ケア対象患者は比較的若年で,ケア期間が短く,常時緩和を必要とする厳しい症状を抱えており,緊急時に受け入れ可能な病院〔できればホスピスや緩和ケア病棟(PCU)〕の確保は,患者,家族にとって大きな安心となる。しかし一方で1),医療施設中心に展開される過程で生活や地域の視点が欠如し,家族ケアや心理社会的ケアおよびスピリチュアルケアの欠落につながる恐れもある2)。
2006年にがん対策基本法が成立し,「がん医療の均てん促進」の基本戦略のもと,医療依存度の高い患者を対象とした在宅療養支援診療所が制度化され,12年に施設基準のより厳しい機能強化型在宅療養支援診療所を経て,16年には在宅緩和ケア充実診療所の制度が新設された。具体的には,①15回以上の緊急往診,20人以上の在宅死,②PCUまたは在宅ケア診療所経験の常勤医,③2回/年以上のオピオイド持続投与(CSI)の経験,④緩和ケア養成研修を受けた医師,⑤在宅死数と在宅緩和ケア実施例数の掲示,といった厳しい基準条件である3)。海外では既に,地域緩和ケア(CBPC)の普及に向け専門職の人材育成に力点が置かれている。わが国でも,今後は施設間の人材交流等の協調・協働が必須となるであろう。
【文献】
1) 奈良林 至:がん患者と対療. 2002;13(1):35-9.
2) 蘆野吉和:在宅新療0→100. 2017;2(9):785-91.
3) 川越 厚:Prog Med. 2016;36(10):1377-86.
【解説】
星野奈月 がん研究会有明病院緩和治療科副医長