(千葉県 K)
ラニナミビル(イナビル®)は,わが国で開発された長時間作用型の吸入ノイラミニダーゼ阻害薬で,2010年にインフルエンザの治療に,2013年に予防に対して,承認されました。現時点で使用が承認されているのはわが国のみです。適応用量として,治療・予防ともに40mg(10歳以上)または20mg(10歳未満)を単回吸入します。
ラニナミビルの構造はザナミビル(リレンザ®)に類似し,水酸基の1つがメトキシ基で置換されています。そのため,ザナミビルと同様,耐性ウイルスはきわめて少なく,オセルタミビル(タミフル®)耐性H1N1ウイルス(H275Y変異)に対しても感受性を保持します。
ラニナミビルの臨床試験の多くは,わが国を中心として実施されたものです。成人の二重盲検ランダム化試験(RCT)では(2008年11月~2009年3月,日本,台湾,韓国,香港の117施設),20歳以上のインフルエンザ患者996人において,ラニナミビル40mgまたは20mgの単回吸入と,オセルタミビル(75mg,1日2回,5日間内服)との効果が比較されました。症状軽快までの期間の中央値は,ラニナミビル40mg群で73.0時間,オセルタミビル群で73.6時間でした。その差〔95%信頼区間(confidence interval:CI)〕は−0.6時間(-9.9~6.9時間)で,ラニナミビルのオセルタミビルに対する非劣性が示されました(非劣性マージン18時間)1)。結果の解釈には,H1N1とH3N2の割合は2:1で(B型はごくわずか),H1N1ウイルスのほぼすべてがオセルタミビル耐性(H275Y変異)であったことに注意する必要があります。
小児の二重盲検RCTでは(2008年12月~2009年3月,わが国の43施設),9歳以下の患者184人において,ラニナミビル40mgまたは20mgの単回吸入と,オセルタミビル(5日間内服)との効果が比較されました。オセルタミビル耐性H1N1ウイルス(H275Y変異)の感染者では,ラニナミビル群はオセルタミビル群と比べ,症状軽快までの時間が60時間以上短く(P<0.01),H3N2ウイルスとB型ウイルスでは,両群で有意差がないことが示されました2)。
その他,20歳以上の患者201人(2009年11月~2011年3月,わが国の53施設における試験。大部分が気管支喘息の患者)を対象とした二重盲検RCTでも,ラニナミビル(40mg単回吸入)群とオセルタミビル(5日間内服)群とでは,症状軽快までの期間に差がみられなかったことが報告されています3)。
しかし,海外で実施されたBiota社主導の第Ⅱ相試験では(2013年6月~2014年4月,12カ国639人を対象とした試験),ラニナミビルとプラセボとでは,症状軽快までの期間には有意差がみられませんでした。
インフルエンザウイルスが検査で確認された248人(75%がH1N1pdm09ウイルス,19%がH3 N2ウイルス,6%がB型ウイルス)において,症状軽快までの期間の中央値(95%CI)は,ラニナミビル40mg群で102時間(81~115時間),プラセボ群で104時間(93~141時間)でした(P=0.25)。ラニナミビル群はプラセボ群に比較して,3日目にウイルス培養が陰性となった割合(P=0.002)や,二次的な細菌性合併症の発生率(P=0.013)は,有意に低かったとされています4)。この結果を受け,Biota社は米国などでのラニナミビルの開発・販売を断念しました。
このように,わが国と海外では販売・使用の根拠としている臨床試験が異なっています。そのためわが国では,ラニナミビルの効果はオセルタミビルと同等と考える向きが強い上,単回吸入ですむ簡便さも支持されているのでしょう。ラニナミビルに関する臨床データが,さらに検証されていくことが必要です。
【文献】
1) Watanabe A, et al:Clin Infect Dis. 2010;51 (10):1167-75.
2) Sugaya N, et al:Antimicrob Agents Chemother. 2010;54(6):2575-82.
3) Watanabe A:J Infect Chemother. 2013;19(1): 89-97.
4) GlobeNewswire:Biota Reports Top-Line Data From Its Phase 2 “IGLOO” Trial of Laninamivir Octanoate. 2014.
【回答者】
畠山修司 自治医科大学附属病院総合診療内科/ 感染症科准教授