(東京都 T)
75歳以上の高齢者の3割以上が,めまい・ふらつきなど何らかの体平衡の異常を自覚しており1),その原因も多岐にわたります。誌面の都合上,本稿では日常臨床において特に重要な3疾患についてお答えします。
良性発作性頭位めまい症(benign paroxysmal positional vertigo:BPPV)2)はめまい疾患の中で最も多く,半規管内に粒子(デブリ)が迷入することで生じると考えられています。症状は特徴的であり,頭部回転時に生じる数秒~1分程度の回転性めまいです。寝起きや,靴ひもを結ぶ,上方にあるものを取ろうとした際,つまり前後方向に頭部を回転させたときにめまいが生じる後(前)半規管型と,寝返りなど左右方向の頭部回転で誘発される外側半規管型にわけられます。
BPPVは問診だけによって診断することもできますが,頭位眼振検査,頭位変換眼振検査を行うことでより確実に診断することができます。治療は半規管内に迷入した粒子を卵形囊に排出させることを目的とした,頭位治療が行われます。頭位治療はどの半規管に粒子が迷入したかによって異なりますので,まずは眼振検査によって病巣診断を行い,それぞれの患者に合った頭位治療を行います2)。
内海ら3)は末梢性めまいが疑われて入院した急性めまい患者309例中5例(1.6%)が中枢性めまいであったと報告しています。特に高齢者では若年者に比べて中枢性めまいの比率が高く,疾患の重篤度からも中枢性めまいの鑑別が何より優先されると思います。Newman-Tokerら4)は,ベッドサイドで施行可能な3つの簡易検査であるヘッドインパルステスト(Head Impulse Test),眼振検査(Nystagmus),偏斜視検査(Test of Skew)を組み合わせることで,MRI以上の診断精度で急性めまいの中から中枢性めまいを診断できるとし,3つの検査の頭文字を取った「HINTS」によるスクリーニング法を提唱しています。
このほか,体幹失調のため立位や歩行が不可能な場合や,意識障害がある場合も中枢性めまいを疑うべきです。脳梗塞の画像診断では頭部MRI検査,特に拡散強調MRIが優れています5)。ただし,超急性期では拡散強調MRIでも偽陰性になる場合がありますので,発症当日のMRIで異常が認められなくても,適宜MRIの再検査を検討する必要があります。治療は高次施設にお願いすることになると思いますので割愛します。
高齢者は若年者とは薬剤に対する感受性が異なることから,めまいの原因を考えるとき,薬剤の影響も考慮する必要があります。一番多い起立性低血圧は,降圧薬のほか,排尿障害治療薬など他の薬剤でも生じることがあるので注意が必要です。またフェニトイン,マイナー・トランキライザー,抗うつ薬による中枢神経作用,アスピリンやアミノ配糖体,シスプラチンによる内耳障害によってもめまい,ふらつきが生じえます。このため薬剤歴は必ず聴取し,原因薬剤の中止,減量を考慮します。
【文献】
1) 鈴木 衛:医事新報. 2003;4143:89.
2) 將積日出夫:日耳鼻会報. 2016;119(1):6-13.
3) 内海 愛, 他:日耳鼻会報. 2010;113(7):593-601.
4) Newman-Toker DE, et al:Semin Neurol. 2015; 35(5):506-21.
5) 石川牧子, 他:ENTONI. 2008;87:23-30.
【回答者】
新藤 晋 埼玉医科大学耳鼻咽喉科・神経耳科講師