IgA血管炎は自然軽快する可能性のある病気でもあり,ステロイドの適応症に関しては慎重に判断すべきです。
重篤な症状があったり,症状が強いなどの場合にはステロイドを使用することもありますが,なるべく早期に減量できるように調整します。
重篤な臓器障害をきたしている場合や生命の危機にある場合には,ステロイドにシクロホスファミドを加えることがありますが,それを支持する臨床データは限られています。
ステロイドはなるべく早期に中止できるようにします。
▪筆者は内科医ですので,本項での記載は基本的に成人を想定して書いています。
▪IgA血管炎は,以前はヘノッホ・シェーンライン紫斑病とも呼ばれた血管炎であり,2012年のChapel Hill Consensus会議では免疫複合体血管炎のひとつとされ,小型の血管を中心に血管炎を起こす疾患です1)。
▪IgA血管炎は,紫斑,関節炎/関節痛,腎炎,腹痛が典型的な4徴候であり,小児で最も頻度が高い血管炎です。基本的には自然軽快する疾患と言われていますが,再発を繰り返す場合もあります。
▪小児のIgA血管炎では腸重積が起こることがあるので注意が必要ですが,成人で腸重積がみられることは稀です。
▪成人のIgA血管炎では腎病変が多いとされ,慢性腎不全への移行も小児に比べると多いとされています。ただし,成人の場合はもともとの腎障害の程度や高血圧など他の因子による修飾もあると考えられています2)。
▪IgA血管炎でみられる腎病変の病理所見は,IgA腎症の病理所見と見わけが難しいです。
▪通常,臨床徴候の組み合わせから診断をつけることが多く,隆起性の浸潤を触れる紫斑があり,それに加えて4徴候の中のひとつがあることから診断していきます。皮膚あるいは腎臓の生検を行うことが多く,皮膚生検では,通常は白血球破砕性血管炎が病理像としてみられ,蛍光免疫染色を行うとIgAの沈着がみられます。出現して24時間以内の皮疹で生検を行うのがよいとされています。
▪EULAR/PRINTO/PRESから出されたIgA血管炎の分類基準があり,基本的には小児を対象としています3)(表1)。成人でも検証した結果があり,感度は99.2%(95%信頼区間95.4~99.9%)で,特異度は86.0%(95%信頼区間80.7~90.3%)でした4)。
▪KDIGOの2021年のガイドラインでは,IgA血管炎の診断時には二次性の要因を考慮することならびに年齢相応の悪性腫瘍のスクリーニングを行うことが推奨されています5)。
▪IgA血管炎は症状が自然軽快することもある病気なので,ステロイドは使わずに経過をみることがあります。
▪皮膚の症状にはステロイドを使用せずに,コルヒチンやダプソンなどの薬剤のみで経過をみることもあります。
▪重篤な病態がある場合にはステロイドの使用を考慮します。腎臓では特に急速進行性糸球体腎炎がある場合,消化器では重篤な虚血性腸炎がある場合,呼吸器では肺胞出血がみられる場合などに使用します。また,皮膚病変でも,潰瘍がある場合や痛みが強い場合にはステロイドを使用することがあります。
▪小児では腹部症状で痛みが強い場合,ステロイドの使用により症状が緩和することがあると報告されています6)。ステロイドにより腎症や消化管症状の出現を防げるか否かに関しては,有効ではないとする小児の報告があります7)。
◉IgA血管炎に伴う腎炎の治療については,KDIGO(Kidney Disease:Improving Global Outcomes)から最新版ガイドラインが2021年に出ており,その内容の一部を紹介します5)。
【子どものIgA血管炎による腎炎の治療】
このガイドラインでは子どもは18歳以下と定義されています。
◉IgA血管炎があり,腎炎の徴候が軽度あるいはない場合に,ステロイドを使用することで腎炎が防げることを支持するデータはない。
◉10歳以上の子どもでは,ネフローゼ症候群の定義を満たさない蛋白尿,腎機能低下をきたしていることが多く,30日以上の生検や治療の遅れにより慢性の病理所見を認めることが多い。
◉腎炎をきたす子どもは,IgA血管炎発症の3カ月以内に腎炎を起こすことが大半である。尿のモニターは6カ月以上行うことが必要であり,全身性の徴候の出現から12カ月行うことが最適である。
◉IgA血管炎に伴う腎症があり,蛋白尿が3カ月を超えてあるような場合には,ACE阻害薬またはARBにて治療すべきであり,小児腎臓内科を受診すべきである。
◉ネフローゼ領域の蛋白尿がある場合,GFRの低下,中等量の蛋白尿(1g/日)が継続する場合には生検を行うべきである。
◉経口プレドニゾン/プレドニゾロンあるいは経静脈的メチルプレドニゾロンパルスを軽度あるいは中等度のIgA血管炎腎症がある子どもには使うべきである。
◉ネフローゼ症候群のあるIgA血管炎腎症あるいは急速に腎機能が悪化する場合には急速進行性のIgA腎症と同様に治療すべきである。
【成人のIgA血管炎による腎炎の治療(急速進行性糸球体腎炎ではない場合)】
◉心血管リスクの評価を行い,適切な治療を必要に応じて行う。
◉禁煙,体重コントロール,運動などの生活習慣のアドバイスを適切に行う。
◉特定の食事への介入がIgA血管炎の腎炎のアウトカムを変えるということは示されていない。
◉各国の血圧目標値に則して血圧治療を行う。KDIGOは標準的な測定法で収縮期の血圧が120mmHg未満を目標とすることを提案する。
◉蛋白尿が0.5g/日を超える場合にはACE阻害薬またはARBを可能な範囲内で最大量使用する。
◉参加できるものがあれば,臨床試験に参加することを提案する。
【成人のIgA血管炎による腎炎の治療(最大限のサポーティブ治療でも進行性CKDのリスクが高い場合)】
最大限にレニン-アンジオテンシン阻害を最低限3カ月したにもかかわらず,また推奨されている血圧目標を3カ月達成しているにもかかわらず尿蛋白が1g/日を超えるものと定義されています。
◉IgA血管炎による腎炎に対して,Oxford Classification MEST-C scoreを用いて免疫抑制を開始するかの判断をすることを支持する十分なエビデンスはない。
◉腎生検を行い半月体が認められるということが,免疫抑制開始の適応というわけではない。
◉免疫抑制を考慮する患者には,それぞれの薬剤のメリット・デメリットを詳細に議論するべきであり,特にeGFRが50mL/分/1.73m2未満の場合には有害事象が多いということを認識すべきである。
◉免疫抑制を希望する患者では,IgA腎症の項(☞2章17)で述べられているように,ステロイドで治療する。
【成人のIgA血管炎に伴う腎炎で,急速進行性糸球体腎炎がある場合】
◉潜在的な免疫抑制によるリスクとベネフィットが患者レベルで評価されるべきであり,患者と議論されるべきである。
◉治療に同意する患者はANCA関連血管炎のKDIGOのガイドラインに沿って治療されるべきである。
◉IgA血管炎による腎炎患者では,腎以外の病変(肺,消化管,皮膚)などの病変が免疫抑制の方針の決め手となることもあるかもしれない。
◉急速進行性糸球体腎炎を伴うIgA血管炎による腎炎において血漿交換の効果を決定できる十分なデータがない。しかしながら,非コントロールのケースシリーズで生命あるいは臓器障害の危機にあるIgA血管炎の腎外合併症のある患者でステロイドに加えて血漿交換を追加することで改善効果が高まる潜在的役割が示唆されている。American Society for Apheresisのガイドラインを参照すべきである。
▪ステロイドを使用すると,実際に症状緩和が得られたり,病勢の進行を抑えられたりすることがあるため,症例を選んでステロイドが使用されます。
▪ただし,自然軽快することもあり,ステロイドを長期間使用すると起こりうる重篤な副作用のリスクもあるため,使用を開始する場合には十分に検討を行います。
▪腎炎の予防のためにステロイドを用いることは勧められていません。
▪往々にして,ステロイドを使わなければならない事態が起きた場合,1mg/kg程度の用量が必要になります。
▪症状の重篤度,侵されている臓器の種類などによって開始用量を変えます。
▪治療対象となっている症状の臨床症状,臨床所見,血液検査,必要であれば画像検査なども含めて総合的に病勢を判定し,治療への反応性を判断します。
▪IgA血管炎ではバイオマーカーのみで病勢を判定することは難しいです。
▪IgA血管炎は症状の幅が広く,ステロイドを使用しなくてもよい場合もあります。
▪重篤な臓器障害や生命の危機にある状態でなければ,ステロイド単剤で加療を行ってよい場合もあります。しかし,重篤な臓器障害や生命の危機にある状態では,ステロイド単剤の治療で終わらせない専門家が多いです。ただ,質のよい介入臨床試験がなく,成人でのデータは少ないため専門家ごとに異なるアプローチをとっています。
▪データとしては限られていますが,腎生検で半月体形成性腎炎がある場合はステロイドにシクロホスファミドやミコフェノール酸モフェチル(本邦保険適用外)を加える専門家もいます。
▪フランスで行われた,生検で証明された成人のIgA血管炎に対するオープンラベルの多施設共同無作為化試験8)では,54人のIgA血管炎患者においてステロイド単剤あるいはステロイドに加えてシクロホスファミド(0.6g/m2を0週,2週,4週,8週,12週,16週に静注)が用いられました。プライマリーエンドポイントである6カ月時点での寛解でしたが,両群に差はみられませんでした。セカンダリーエンドポイントである腎機能や蛋白尿の量なども特に両群で差は認めませんでした。1年後の生存率はステロイド単剤で79%,ステロイド+シクロホスファミド群で96%(log-rank test P=0.08)でした。
▪肺胞出血や重度の虚血性腸炎などの場合も,ステロイドに他の免疫抑制薬を加えることがあります。
▪ミコフェノール酸モフェチル(本邦保険適用外)もIgA血管炎による腎炎に対する効果が期待されています9)。
▪観察研究ではIgA血管炎に対するリツキシマブ(本邦保険適用外)の使用が報告されています。再発あるいは抵抗性,または従来用いられてきた薬剤が使用できないような患者において,リツキシマブで90%以上の患者が寛解を達成,また,ステロイドの減量効果や蛋白尿の減少などを認め,IgA血管炎に対する効果の期待は高いです10)。
➡関節痛/関節炎に対する第一選択薬としてはNSAIDsが用いられることがあります。
➡ただ,IgA血管炎では消化管出血や腎不全をきたすことがあるため,NSAIDsを使う際には十分な注意が必要です。
➡サラゾスルファピリジン(本邦保険適用外)がIgA血管炎に有効かもしれないとの報告も出てきています11)。特に,この報告の中では関節炎/関節痛に対する有効性が高いです。
▪ANCA関連血管炎のように,寛解導入から寛解維持という流れでの治療方法に関して,IgA血管炎は確立されていません。
▪シクロホスファミドなどで加療した患者では,経験的に他の血管炎の治療と同様に,アザチオプリンやミコフェノール酸モフェチル(本邦保険適用外)などの免疫抑制薬へと変更していく場合もあります。
▪ステロイドスペアリング効果を狙って使われる薬剤としては(データでは限られていますが),アザチオプリン,ミコフェノール酸モフェチル(本邦保険適用外),リツキシマブ(本邦保険適用外)などがあります。
▪特に決まったステロイドの減量法があるわけではありません。
▪前述の重篤な患者に対して,ステロイドにシクロホスファミドを加える試験では7.5mg/kg/日のメチルプレドニゾロンを3日間投与したのち,1mg/kgのステロイドを1週間投与,そして1カ月時点では0.4mg/kg/日,2カ月時点では0.25mg/kg/日に減量,6カ月後にステロイド中止をめざすというプロトコールです。
▪最重症でない症状にステロイドを用いた場合,短期間での使用にとどめるようにします。
▪治療対象となっている症状,臨床所見,血液検査/尿検査,必要であれば画像検査などを参考にしながら,病勢を総合的に判断してステロイドの減量を行います。簡単に病勢を判断できるバイオマーカーは存在しません。
▪ステロイドをある程度の量しっかり使用したにもかかわらず効果がまったくない場合は,他の薬剤の投与を考慮しつつ,早めにステロイドを減量・中止することで副作用の発現を抑えます。
▪ステロイドは中止できます。また,ステロイドを投与しなくてよい症例もあります。
▪ステロイドの効果が不明な症例に対して,ステロイドを長期に投与することは避けます。
①特に既往はなかったが,未治療の糖尿病があることが今回わかった。10年ほど医療機関にかかっておらず,いつ頃から糖尿病を発症したかは不明。今回は紫斑の出現により来院。触知するような紫斑であり,血管炎が強く疑われた。尿を調べたところ,尿蛋白/クレアチニン比で1.5g/日と推測され,尿潜血は3+,尿沈渣では赤血球円柱がみられ,腎炎が強く疑われた。クレアチニンは2.2mg/dLと上昇していたが,最近のベースラインは不明。
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②ANA,ANCAやクリオグロブリンは検出されず,腎生検では25%程度の糸球体に半月体形成を認める増殖性糸球体腎炎がみられた。蛍光免疫染色ではメサンギウム領域に特に強くIgA優位の沈着を認めた。IgA血管炎の診断となった。
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③急速進行性糸球体腎炎をきたしている可能性も考慮し,ステロイドパルスならびに60mg/日の高用量プレドニゾロンを開始。シクロホスファミドによる加療も追加された。その後,血尿が改善,クレアチニンも1.2mg/dL程度まで改善した。維持療法としてアザチオプリンに変更し,ステロイドも6カ月ほどで中止となった。
文 献
(田巻弘道)