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[緊急寄稿]新型コロナウイルス間質性肺炎の検証─初発と再発では,なぜ発症メカニズムが大きく変わるのか(高橋公太)

No.5188 (2023年09月30日発行) P.34

高橋公太 (新潟大学名誉教授,高橋記念医学研究所所長,白石病院名誉院長)

登録日: 2023-05-19

最終更新日: 2023-05-19

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  • たかはし こうた●1974年新潟大学医学部卒業後,東京女子医科大学を経て,95年新潟大学医学部泌尿器科教授。2010年新潟大学医歯学総合病院総括副院長。日本臨床腎移植学会理事長,日本臓器移植ネットワーク理事などを歴任。現在,新潟大学名誉教授,高橋記念医学研究所所長,南千住病院名誉院長,白石病院名誉院長として医療の現場で活動している。ABO血液型不適合腎移植をわが国で初めて成功。新潟日報文化賞,日本腎臓財団大島賞・学術賞,2012年度日本医師会医学賞,文部科学大臣2014年度科学技術賞,2022年度日本サイコネフロロジー学会春木記念賞などを受賞。

    Point

    新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)によって引き起こされる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は,今までの感染症の既成概念を一変させた。

    COVID-19はウイルスによる直接障害の感冒様症状で始まり,やがて間接障害として急速に免疫疾患を発症させ,急性免疫介在性炎症性疾患,さらに一部は慢性免疫介在性炎症性疾患に変貌していく。

    間質性肺炎は早期に治療すれば,速やかに回復する。

    初発時のSARS-CoV-2間質性肺炎に対しては免疫の一次応答(自然免疫)が反応する。それに対して再発時の間質性肺炎では二次応答(獲得免疫)が反応するので,その発症メカニズムは大きく異なる。

    はじめに

    新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は,きわめて狡猾なウイルスであることは以前から本誌にて指摘してきた。ヒトの生体防御機能の弱点を熟知しており,単なる感冒様症状のウイルス感染症から,その病原性はもとより抗原性の強さから病状が急速に進行して,間質性肺炎に代表される急性免疫介在性炎症性疾患(急性免疫疾患)に変貌する(図1)。

    我々人類はこれまで,このような異例な速さで病態が変貌する感染症に遭遇したことがなかったので,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の全貌を把握することが難しかった。ここに治療の難しさがある。

    今回は,SARS-CoV-2間質性肺炎の発症を繰り返した腎移植患者の症例を提示して,SARS-CoV-2間質性肺炎の全貌に迫りたい。

    1. 症例提示

    提示する2症例とも適切な免疫抑制療法を受けており,移植腎機能も良好であるため,健常人の生体防御機能とほぼ同様と考えてよい。

    (1)症例1の経過説明

    初発時と再発時の違いを調べてみると,SARS-CoV-2の侵入経路や原発巣の違いが明らかになった。

    特に胸部単純CT画像を喉頭部から下肺野まで詳細に調べてみた(図2〜4)。図2を見ると,両喉頭部の所見の相違が一目瞭然である。 

    初発時では患者が上気道の強い疼痛,薬剤も水分も摂取できないほどの灼熱感を訴えた。それを反映して,声帯,気道粘膜の浮腫,炎症により気道閉塞が見られ,鼻カニュラからいくら酸素を吸入しても,血中酸素飽和度は上昇しない。

    患者は退院してから日常生活を送っていたが,退院19日目,突然呼吸困難に陥り,低酸素血症のため一時意識を消失した。患者は,このときの記憶はない。

    再発時のCT所見では気道の閉塞は見られない(図2b)。初発時には下肺野を中心とした病巣が主体であったが,再発時では,加速度的に全肺野に病巣が及んでいる(図3・4b)。また,初発時に見られた咽頭痛はなく,再発時のSARS-CoV-2検査は陰性である。

    なお,この症例において,初発時(病期分類の前期,すなわちウイルス期)に抗SARS-CoV-2薬を使用できなかったのは,この時点で抗SARS-CoV-2薬は自治体が指定した施設しか処方できず,初診時の医療機関では入手できなかったためである。また,再発時には,SARS-CoV-2検査は陰性で,病期は前期(ウイルス期)を脱して後期の急性免疫疾患期に移行していると考え(図1),抗SARS-CoV-2薬は使用されていない1)〜5)

    (2)症例1の小括

    これらの所見やデータを総合して考えると,以下のようにまとめることができる。

    ①初発時のSARS-CoV-2の感染経路

    初発時のSARS-CoV-2は,アンギオテンシン変換酵素2(angiotensin-converting enzyme 2:ACE2)受容体が多くある口腔,鼻腔粘膜から接着侵入して上気道,下気道を経て肺胞に至り,間質性肺炎を発症させた。したがって,治療としてはステロイドの全身投与と同時に,気道閉塞に対してステロイド外用剤の口腔,鼻腔からの噴霧投与が有効である。

    ②原発巣

    初発時の原発巣は上気道,再発時の原発巣は肺である。

    ③免疫抑制薬MP,FK506の継続,MMFの中止

    FK506は,カルシニューリン阻害薬(calcineurin inhibitor:CI)の一種で,Tリンパ球を特異的に抑制する免疫抑制薬であり,突如中断すると,今まで抑制されていたTリンパ球が異常増殖して,一気に全肺野に病巣が拡大して重症化する。筆者は以前,腎移植患者のサイトメガロウイルス(CMV)間質性肺炎で,シクロスポリン(cyclosporine:CYA)やFK506のCIを中止したことにより,不幸な転機をたどった多数の症例を経験している6)〜9)

    MMFは代謝拮抗薬の一種である。非特異的免疫抑制薬で,骨髄抑制の副作用がある。したがって,細菌,真菌感染などの合併症を予防するため,病状が回復するまで中断する。

    再発例では,時間の経過とともに慢性化して組織にBリンパ球も浸潤してくるが,CIではTリンパ球しか抑制できないのでMMFの投与を再開する。

    ④抗SARS-CoV-2薬

    この症例は,A医療センター再入院時には,急性免疫疾患期に入っていたので,抗SARS-CoV-2薬は初発時から一貫して使用されていない

    ⑤再発時はSARS-CoV-2検査陰性

    再発時で注目すべきことは,ウイルスが患者の体内に存在しないにもかかわらず,間質性肺炎を発症していることである。さらに気道の浮腫や炎症もなく,突然呼吸困難を訴えている。

    この原因は,初発時に実施したステロイド治療や抗IL-6抗体治療に抵抗性を示した感作リンパ球が,肺の組織,特にリンパ節にメモリー・セルとして残存した結果,免疫の二次応答として加速度的に増殖したことにより,再びサイトカイン・ストームが発生したためと考えられる。これにより急速に全肺野に病巣が広がり,重篤な間質性肺炎を引き起こした。主治医は筆者に連絡,相談し,速やかにステロイド・パルス療法を実施した。

    ここで不適切な治療をすると,繰り返し間質性肺炎を起こし,慢性免疫介在性炎症性疾患(慢性免疫疾患)となり,肺気腫や組織の線維化が進んで呼吸不全で死亡するか,肺移植の適応となった可能性が高い10)

     

    (3)症例2の臨床経過

    来院時は初発症状から6日目で,既に患者のウイルス量が減少しているので抗SARS-CoV-2薬(モルヌピラビル)の効果は限定的である。息苦しさがあるので,この時点で胸部CTを撮れば「すりガラス状陰影」が現れていたと推測され,ステロイド薬を併用投与すれば,速やかに寛解したと考えられる3)〜6)

    C大学附属病院に転院したが,この時期にはウイルスは消失しているので,SARS-CoV-2薬レムデシビル投与は腎障害の副作用が出る可能性があるだけで効果は期待できない2)11)

    初発症状から14日目にステロイドが投与されている。その結果,保険適用の低用量のステロイドではリンパ球を抑制できず再燃した。再燃してから初めて筆者に連絡,相談。筆者は主治医に速やかにMPパルス療法を指示。MPパルス療法が開始された。その後漸減療法を継続し,再発はなく,退院。現在,外来観察している。

    この症例は,抗SARS-CoV-2薬,ステロイドとも投与が遅く,そのことが間質性肺炎の再燃の理由と考えられる3)4)12)13)

    (4)症例2の小括

    これらの所見やデータを総合して考えると,以下のようにまとめることができる。

    ①抗SARS-CoV-2薬

    抗SARS-CoV-2薬は病期分類の前期(ウイルス期)に投与しなければ効果が見られないことは本誌にて繰り返し強調してきた。ステロイドも病期分類後期の急性免疫疾患期に早めに投与すれば,速やかに回復する2)〜5)13)14)

    ②COVID-19関連低血圧症

    重症例ではしばしば低血圧症を伴う。おそらく血管内皮細胞表面にあるACE2受容体にSARS-CoV-2が接着して血管が拡張することや,放出されたリンホカインにより細胞膜の透過性が変わって,血管内から間質に水が移動することにより血管内脱水が起こり,低血圧症になると考えられる。

    特に高血圧症で降圧薬を服用している患者は,一時中断することが肝要である。病状が回復してくると血圧が上昇してくるので,また再開しなければならず,血圧の変動には注意する15)

    ③免疫抑制薬

    免疫抑制薬の治療方針は基本的に症例1と同様にすべきである。


    なお,2症例ともに筆者が外来で以前フォローしていた患者である。症例を提示するに当たって,COVID-19の診断,検査,治療,およびその所見に関する資料は,人類共通の財産であり,今後の医学医療の進歩,発展に役立たせるため,学会発表,講演,論文に使用させていただくことを説明し,十分に理解した上で,二人の患者から文書で同意をいただいた。勇気ある行動に心から感謝の意を表したい。

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