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IgG4関連疾患センターの立ち上げ[学術論文]

No.5180 (2023年08月05日発行) P.32

神澤輝実 (東京都立病院機構がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長/IgG4関連疾患センター長)

登録日: 2023-08-06

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1 IgG4関連疾患センターの立ち上げ

IgG4関連疾患は,21世紀に生まれた日本から世界に発信した医学の新しい一頁を飾る疾患である。同時性および異時性に諸臓器に腫大,肥厚や腫瘤形成をきたす全身性疾患で,血中IgG4値の上昇と病変部への多数のIgG4陽性形質細胞浸潤を特徴とする1)。悪性腫瘍との鑑別が重要で,生検が行われることが多い。しかし,生検で十分な検体が採取できない場合や生検が困難な臓器では,診断にしばしば難渋する。治療面ではステロイドが奏効するも再燃率が高く,またステロイド不応例・依存例も存在し,難病に指定されている。

IgG4関連疾患は比較的稀な疾患であるが,本疾患を専門に診療する医師が少ないため,当院へは難治例を含め多くの患者が紹介されてくる。病変が様々な臓器に及び,院内の多くの科が診療に関わるので,組織横断的に対応する必要がある。

本疾患に関わることの多い診療科(消化器内科,膠原病科,耳鼻咽喉科,眼科,泌尿器科,総合診療科,放射線科,病理科)において主な担当医を決めて,密な連携をとることで適切な診療が可能になることから,当院では世界で初めてIgG4関連疾患センターを立ち上げた。診断や治療が困難な例に適切に対応する一方で,症例を集積して新たな診断・治療法の開発研究に取り組みたい。

2 IgG4関連疾患とは

膵臓に腫瘤をつくり,膵臓癌の診断でしばしば切除された腫瘤形成性膵炎において,発症に自己免疫の機序が推察されて1995年にわが国から自己免疫性膵炎の概念が提唱され2),2001年には血中IgG4値が上昇することが報告された3)。筆者らは自己免疫性膵炎患者の諸臓器に多数のIgG4陽性形質細胞浸潤が認められたこと等より,IgG4が関連する全身性疾患の概念(IgG4関連全身性疾患)を2003年に提唱した4)。従来ミクリッツ病やmultifocal fibrosclerosisと呼ばれてきた病変も本疾患であることがわかり,現在,本疾患は世界的に認知されている。

病因は解明されていないが,獲得免疫反応と自然免疫反応の異常が積み重なって起こると推察されている。病理組織像は特徴的で,リンパ球とIgG4陽性形質細胞の密な浸潤,紡錘形細胞が錯綜配列を示す花筵状線維化および閉塞性静脈炎を認める(図1a~c)。

 

患者数は推定で数万人であり,高齢の男性に多く発症する傾向がある。罹患臓器としては硬膜,下垂体,涙腺,唾液腺,甲状腺,乳腺,肺,膵臓,胆管,胆囊,肝臓,腎臓,前立腺,消化管,リンパ節など,全身のほぼ全臓器に及ぶが,膵臓・胆管と涙腺・唾液腺の頻度が高い(図2)。病変は複数臓器に及ぶことが多いが,単一病変の場合もある。臨床的には罹患臓器により異なった症状を呈し,臓器腫大や肥厚による閉塞・圧迫症状や,細胞浸潤や線維化に伴う臓器機能低下を示すことがある。IgG4関連涙腺・唾液腺炎における容貌変化,自己免疫性膵炎での閉塞性黄疸,IgG4関連後腹膜線維症における尿管閉塞による水腎症等が代表的であるが,無症状で全身検索の画像診断により指摘されることも多い。

診断は,①臓器の腫大や肥厚などの画像所見,②高IgG4血症,③病理組織的所見,④他のIgG4関連疾患の合併,⑤ステロイドへの反応性,等を組み合わせて行われる。診断にあたっては,各臓器の悪性腫瘍(がんや悪性リンパ腫)や類似疾患(原発性硬化性胆管炎,シェーグレン症候群,キャッスルマン病等)と鑑別することが重要であり,病理組織学的アプローチが望まれる。

ステロイドが奏効し,経口ステロイドが標準治療である。プレドニゾロン0.6mg/kg/日程度の初期投与量を2週間ほど投与し,検査所見等を参考に約2週間ごとに5mgずつ漸減し,3~6カ月ぐらいで維持量まで減らす。治療への反応が悪い例では悪性腫瘍などを疑って,再検査する必要がある。ステロイド減量中や中止後にしばしば再燃が起こるので,再燃予防に少量のプレドニゾロンによる維持療法を1~3年前後行うことが多い。ステロイド禁忌例や不応例では,免疫抑制薬が使用される。欧米では再燃例に対してリツキシマブの有用性が報告されているが,わが国では本疾患に対して保険適用になっていない。短期的予後は良好であるが,再燃例が存在し長期的予後は不明である。

通常の悪性腫瘍と少しでも異なる臨床所見,画像所見等を呈する例の中に本疾患が混在している可能性があり,無用な手術等を避けるためにも本疾患を念頭に置いて診療する必要がある。

【文献】

1) Kamisawa T, et al:Lancet. 2015;385(9976):1460-71.

2) Yoshida K, et al:Dig Dis Sci. 1995;40(7):1561-8.

3) Hamano H, et al:N Engl J Med. 2001;344(10): 732-8.

4) Kamisawa T, et al:J Gastroenterol. 2003;38(10): 982-4.</p

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