□正常位置に付着している胎盤が,妊娠中や分娩経過中の胎児娩出前に子宮壁より剝離するものを言う。
□全妊娠の0.3~1.3%に発症する。早剝の反復率は1.9~17.3%で,既往のない症例に比して10~15倍高くなる1)。産科播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)の約50%を占め,母体死亡率は5~10%,児死亡率は30~50%で,脳性麻痺の最も多い単一原因である。
□成因は機械的な外力,慢性的な血管攣縮,局所の血管変性,炎症などあるが不明な点も多い。臨床的には高齢妊娠,多産,妊娠高血圧症候群や慢性高血圧,腎疾患,抗リン脂質抗体症候群,血栓素因,絨毛羊膜炎,前期破水,切迫流早産,子宮内胎児発育遅延などがリスク因子である。
□床脱落膜の出血から始まり,胎盤後血腫を形成し,さらに剝離につながる。子宮筋層や子宮漿膜面に血液浸潤が起こり(クブレール徴候),広間膜に及ぶこともある。胎盤や脱落膜の組織因子が母体血中へ流入すると,DICを引き起こすと同時に,胎児は胎盤剝離により低酸素血症となる。胎盤の位置により外出血がみられる場合と血腫がconcealされ外出血しない場合とがある。
□初発症状は腹部緊満感,腹痛や腰背部痛,子宮収縮,性器出血など,いわゆる切迫流早産と同様の症状を呈することが多く,鑑別診断が重要である2)。
□疼痛・子宮収縮:疼痛は腹部緊満感,軽度の下腹部痛や子宮収縮様のものから突発的な激痛まで様々である。時間経過とともに重症化し,胎盤剝離部に一致した圧痛および間欠期のない持続的子宮収縮となる。重症例では子宮は板状硬となり,胎児部分の触知は困難となる。子宮後壁付着では腰背部痛を訴えることがある。
□性器出血:性器出血の特徴は暗赤色,非凝固性であり,少量ないし認められないこともある。外出血量と母児の予後や重症度とは相関せず,出血量が少ないconcealタイプでは診断が遅れ,児の予後不良となることも多い。
□胎動減少:胎動減少または消失が初発症状となることもあり,胎動の有無を必ず確認する。
□外診・内診:初期には少量の出血や軽度の腹部緊満を認める。早剥が進行すると圧痛を伴い子宮は持続収縮し,板状硬となり子宮底の上昇を認める。
□超音波断層検査:早剥を疑う症例では超音波断層検査で①胎児心拍およびwell-beingの確認,②切迫早産や前置胎盤などの鑑別,③胎盤剝離の診断,などを行う。胎盤剝離の超音波所見としてJaffeの分類が用いられる3)。胎盤後血腫は胎盤剝離から時間が経過し重症化した例で認められることが多く,早期には胎盤辺縁の異常や胎盤の肥厚像(5.5cm以上)として認められることがある。 "いつもと違う胎盤"と感じたときはほかの検査所見も含め総合的に診断する。
□血液検査:発症初期には血液検査上,異常所見を認めないことが多いが発症の要因となる妊娠高血圧症候群やHELLP症候群,子宮内感染徴候などに注意する必要がある。症状の進行に従い,貧血やDIC所見がみられるようになる。血算(WBC,Hb,Ht,血小板),生化学検査(TP,Alb,UA,BUN,Cre,GOT,GPT,LDH,T-Bil,T-cho,TG,CRP),凝固系検査(血沈,APTT,PT,フィブリノゲン,AT-Ⅲ,FDP,D-ダイマー)などを行う。
□胎児心拍陣痛図(cardiotocogram:CTG):胎児の低酸素状態を反映し,acceleration(一過性頻脈),variabilityの減少,tachycardia(頻脈),(mildまたはsevere)variable deceleration(変動一過性徐脈),late deceleration(遅発一過性徐脈)の出現など,non reassuring fetal status(胎児機能不全)徴候がみられるようになる。子宮収縮曲線では不規則なさざ波様収縮や持続的収縮,過強陣痛などがみられる。
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