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子宮内反症・癒着胎盤[私の治療]

No.5231 (2024年07月27日発行) P.54

高橋宏典 (自治医科大学産科婦人科学講座教授)

登録日: 2024-07-28

最終更新日: 2024-07-23

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  • 子宮内反症は,胎児娩出後に臍帯牽引,胎盤用手剝離をきっかけに子宮内面が反転することで,胎盤が剝がれた面を中心に大量出血が惹起され,疼痛を伴う。一方,癒着胎盤は本来,子宮摘出標本において,脱落膜を介さず胎盤絨毛が子宮筋層に浸潤することを病理学的に検討して診断する。子宮を摘出しない場合は,子宮内面に胎盤が強固に癒着し,剝離困難な状態を指す臨床診断名である。癒着胎盤の場合,子宮内反症が発生しやすい。

    ▶診断のポイント

    ほとんどの例で胎盤が自然娩出せず,強い臍帯牽引や胎盤用手剝離を要す。体外受精による妊娠に多く,子宮内反症の既往を持つ女性はさらにハイリスクである。子宮内反が発生した場合,腟鏡診で腟内を占拠する赤い腫瘤を認め,子宮筋腫や胎盤のようにも見える。双合診では子宮体部が確認できない。経腹超音波検査では,子宮底部が内腔へと入り込んでいる所見がみられる。

    子宮内反症は完全内反と不全内反とがあり,完全内反は子宮が完全に「ひっくり返る」状態で,腟口を超えて,子宮が確認できることもある。不全内反は,経腹超音波検査を行えば子宮がM型に描出されるのが容易に確認できるが,軽度の場合は単なる弛緩出血と間違われ,診断が遅れることも多い。不全内反のほうが頻度は高い。妊婦は疼痛を強く訴え,大量出血する。一方,癒着胎盤については,胎盤が強固に子宮に癒着し,用手剝離困難であれば,臨床的に癒着胎盤と診断できる。

    子宮内反症が発生した場合,大出血による出血性ショックだけでなく,腹膜刺激による神経原性ショックが起こることがある。この場合,発症初期には迷走神経反射により徐脈になることがあるので注意が必要である。

    ▶私の治療方針・処方の組み立て方

    子宮内反症が生じた直後,子宮収縮が起こっていなければ,薬剤なしに用手整復が可能なことがあるため,すぐに用手整復を試みるが,これで整復される例は少ない。用手整復を無理に行わず(粘らず),個人病院であればすぐに高次施設への母体搬送を依頼したほうがよい。大病院の手術室で麻酔科医に麻酔管理を行ってもらい,用手整復を行うほうが安全であり,いざとなれば開腹もできる。麻酔科医の連携が得られない環境であれば,分娩室で母体のバイタルサインをモニタリングしながら,後述する子宮弛緩薬および鎮痛薬を投与して用手整復を行う。必要な人員を確保し,十分な輸液,輸血を行う。用手剝離困難な胎盤が残存している場合はまず子宮を整復し,その後の出血の程度をみて治療方針を決定する。

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