避妊を拒まれた女性が男性に対し賠償を求めた裁判で、2024年7月19日、大阪地裁は男性に74万円の賠償を命じました。判決で、女性の自己決定権が侵害されたと認定されたのです。女性は2020〜21年に男性と2度性交渉を持ち、避妊具を使用するよう求めましたが、男性は応じず、女性が妊娠しました。裁判では、妊娠による負担が女性にのみ生じると指摘し、避妊を拒んだ行為を「不法行為」と判断しました。弁護士らもこの判決を画期的と評価しています。
これは、日本の司法においても「リプロダクティブ・ライツ(いつ子どもを産むか・産まないかを自分で決める権利)」「からだの自己決定権」が認められた画期的な判決です。
「リプロダクティブ・ライツ」というのは、セクシャル・リプロダクティブ・ヘルス&ライツ(SRHR)の一部で、「性と生殖に関する健康と権利」のことです。世界的には基本的人権の1つとして認識されていますが、日本ではまだまだ浸透していないのが実状です。
2023年に「不同意性交等罪」が規定され、同意のない性交渉は罰せられるようになりましたが、同意があることと、避妊をするかしないかはまったくの別問題。性交渉に同意しているからといって、避妊をしなくてよいというわけではありません。
避妊をしないことは女性を望まない妊娠のリスクにさらすことになり、女性の自己決定権を侵害する不法行為である、ということを全男性は認識しておいて頂きたいですし、女性は、避妊は男性に任せるしかないわけではなく、女性自身が行うことができる避妊法もあり、むしろそのほうが避妊の有効性も高い、ということを広く知って頂きたいと思います。
ただこれらの避妊法は、避妊だけが目的の場合は保険適用にならず自費診療のため、費用がネックとなることもあります。望まない妊娠は女性の教育やキャリアに大きく影響するため、英国やフランスでは個人の問題ではなく、社会の問題ととらえ、避妊法が無料となっています(一部年齢制限あり)。日本でも検討されてほしいと願います。
稲葉可奈子(産婦人科専門医・Inaba Clinic院長)[リプロダクティブ・ライツ][女性の自己決定権][避妊法の費用]