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羊水塞栓症

登録日:
2017-03-16
最終更新日:
2017-03-28
金山尚裕 (浜松医科大学理事・副学長)
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  • ■疾患メモ

    羊水塞栓症は妊産婦死亡の最大頻度の疾患である。羊水塞栓症の主な原因として,羊水に対する過剰なアナフィラキシー様反応がある。肺動脈に羊水が塞栓するという物理的塞栓の症例は少なく,アナフィラキシー様反応を示す症例が多い。

    臨床病型としては心肺虚脱型とDIC先行型にわかれ,後者は子宮浮腫が病態の中心となることから子宮型羊水塞栓症とも呼ぶ。

    ■代表的症状・検査所見

    【症状】

    心肺虚脱型羊水塞栓症の初発症状は,胸痛,呼吸苦,意識消失,原因不明の胎児機能不全,不穏状態などが多い。初発症状から心停止までの時間は30分程度と極端に短い。

    子宮型羊水塞栓症の初発症状は,胎盤娩出後の子宮弛緩症とサラサラした非凝固性器出血である。発症から1~2時間程度でフィブリノゲン値が感度以下になるような,短時間に進行するDICが特徴である。また,出血量に見合わないDIC,低血圧も特徴である。

    【検査所見】

    〈画像検査〉

    超音波断層法により後腹膜血腫や腟血腫などの血腫形成疾患でないことを確認する。子宮弛緩症があるかどうかを,内診,外診,超音波断層法,CTで確認する。

    子宮のサイズと硬度は羊水塞栓症の早期診断に有効である。柔らかく大きな子宮が特徴である(例:子宮が臍上1指,子宮硬度は豆腐状)。

    肺のCTで肺水腫を認めることがある。

    〈一般血液検査〉

    フィブリノゲンとD-ダイマー,CBCを迅速に測定する。補体C3,C4も同時に測定する。フィブリノゲンが極端な低値,D-ダイマー高値,C3,C4低値(C3:80mg/dL以下,C4:12mg/dL以下)のときは,羊水塞栓症(特に子宮型羊水塞栓症)を疑う。

    〈血清マーカー〉

    救命された症例や妊産婦死亡例で病理解剖が得られないときに,血清による羊水塞栓症の補助診断行うことが勧められる。

    浜松医科大学で測定している血清マーカーとして,亜鉛コプロポルフィリン(Zn-CP1),シアリルTn(STN),C3,C4,インターロイキン8(IL-8)がある。Zn-CP1はHPLC(high performance liquid chromatography)法,STNはRIA法,C3・C4はTIA法,IL-8はEIA法にてそれぞれ測定している。

    Zn-CP1やSTNは羊水および胎便中に多く含まれるもので,これらが母体血中に検出されれば胎児成分が母体血中に流入したと考えられる。IL-8は炎症性サイトカインの1つであり,DICやアナフィラクトイド反応,SIRS,ARDSなどでも高値となる。

    〈C1インヒビター〉

    最近,筆者らはC1エステラーゼインヒビター活性(C1インヒビター)が羊水塞栓症で減少していることを報告した1)。死亡例では特にC1インヒビターの低下が著しく,25%を切る症例も多数存在していた。C1インヒビターは補体系の抑制のみならず,キニン系,凝固線溶系にも直接作用する。

    羊水塞栓症の子宮弛緩症(子宮浮腫),DIC,アナフィラキシー様反応はC1インヒビターの低下症から発生していることを報告した。C1インヒビターの測定は,羊水塞栓症の診断,病態把握,予知のマーカーとなると考えられる。

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